まだ山登りの経験もなく、苦しい山歩きを何故するのかと、不思議に思っていた青春の日に、ある人が言った。「その苦しい道の先にこの世のものとは思えないお花畑があるのよ」この言葉を聞いてから、夏山に出会えるお花畑はずっと憧れの対象であった。一度だけでいい、その感動的なお花畑を見てみたい、という思いが山登りを始める動機であった。
東北以南の山地に咲くイカリソウ。この花は高山植物とは言いがたい。淫羊霍(インヨウカク)という別名もあり、精力剤の生薬として利用されてきた。中国にはこの草を食べると、羊が精力絶倫になったという伝説があった。小林一茶は年老いて妻を娶ったが、山に精力を高める薬草を採りに行ったと、日記に記述している。案外このイカリソウを採りに行ったのかと、想像したりする。
エンレイソウの素朴な花が好きだ。大きな葉の中心にちょこんと乗っかるように咲いている。この花も低山の湿地帯でよく咲いている。より大きなサンカヨウは、高貴な感じがするが、エンレイソウは、そんな高貴さを求めることもなく、自分の分をわきまえてひっそりと咲く姿が、可憐に思える。ジミな花である。
ショウジョウバカマのピンク花を見つけるとうれしくなる。ハカマに例えられる根生葉は、地面を覆い隠すようにすれすれに広がっている。夏になると、これがあのショウジョウバカマかと思うほど、大きく成長する。高さ1mほどにもなる。