蒲公英の綿毛の向こうで、雉のつがいが鳴きかわしている。雉の鳴く季節になった。里の草むらに営巣するので、身近な野鳥である。日本の国鳥になっているが、オスの羽の豪華さ尾の立派なのに対し、メスは地味な姿である。ケーン、ケーンと鳴くのは、メスを誘うためと同時に、自らの縄張りの主張でもあるらしい。
ちゝはゝのしきりにこひし雉の聲 芭蕉
芭蕉は雉の鳴き声を聞いて、「山鳥のほろほろと啼く声聞けば父かとぞ思ふ母かとぞおもふ」という歌を思い出しこの句を作った。芭蕉は貞享5年、吉野に花見に行く旅の途中であった。この年、芭蕉の亡父与左衛門の33回忌にあたっていた。この年の帰郷が、亡父の法要を行うためであったから、この句が生まれた。因みに、貞享元年にはその前の年に亡くなった供養のためであった。芭蕉の帰郷は、父母への思いと強く結びついていた。