最低気温が-3℃、最高気温が2℃。小雪が舞う天気が続いている。外へ出ると冷たい風に身を切られるようだ。「冷たい」という言葉は、金田一春彦の説によれば、ツメが痛いということが語源になっているそうだ。ツメと言っても指先の固くて光る部分、いわゆるネイルだけでなく、昔は指先全体を言ったらしい。つまびく、つまむ、「爪印」など指先全体を指す例はたくさんある。痛いという感覚と、冷たいという感覚は共通しているように思える。
気温が下がってくると、思い浮かぶのは生まれ故郷の北海道の冬である。吹雪のなかを学校へ通ったころ、帽子にあった耳当てがしっかりと付けないために起った凍傷。教室のストーブで暖をとると、耳は急速に膨れ上がってことは今も記憶のなかから消えない。あの凍傷は冷たいと、言う類のものでなく、痛かったと言うのが適切だ。そのためにいつまでも忘れることができないのであろう。
伊藤整「雪の夜」(詩集「雪明りの路」より)
吹雪が屋根で鳴ってゐる。
みんなよく寝入ってゐたが
末の男の子が
小さくしくしく泣いてゐる様だった。
父親は鼾をかき
母は赤子を抱いてふと長い溜息をした。
夜は更けおちたが
風が出て 裸の枝と軒を鳴らしてゐる。
雪は深く家を囲み
家ぢゆうの眠りのそとを
さあと 吹き渡り うづまいて
朝までの寂しい音を続けてゐた。