沼津の兄から蜜柑が届いた。今年は蜜柑の豊作と見えて色艶、甘味も申し分ない。これからお正月にかけてテレビの前で、蜜柑を剥きながらゆくっりと過ごせる。やはり日本人には、昔から馴染んできた果物である。北国に住んでいるので、柑橘類が樹になる様子は見ないので、それが生る土地にいくとやはり目を奪われる。夏ミカンなど、あの大きな実が枝いっぱいに生っているのを見ると感動を覚える。知人に鉢植えの好きな人がいて、冬も蜜柑の鉢を部屋の中に置いて育てると実をつける。だが、悲しいことに北国で生った蜜柑は酸っぱくておいしくない。
蜜柑あまし冬来ぬといふおもひ濃く 中島 斌雄
蜜柑は日本人にとって懐かしい冬の色である。瀬戸内海の日差しをいっぱいに浴びて、この照り輝く色が作られた。永井龍男に『蜜柑』という好短編がある。
「蜜柑の箱を山積みした三輪車が風にあおられて横倒しになっていた。男が二人、木箱の中へしきりにそれを拾い集めている。蜜柑を積んだ三輪車は、砂の上で手もなくスリップしたものに違いない。左手に続く松林と、右にひろがる風波立った海と、その道路上に日を浴びた一果一果が、とにかく素晴らしく明るかった。」
この蜜柑の明るい色は、いわゆる表日本の海岸で日を青空と海からの照り返しの両方を受けたものだ。北の山の陰には見られない。それ故に渇望する色である。