棚田の稲穂も垂れてきた。こんな風景を見るたびに懐かしい思いがする。生まれた処に棚田があったわけではない。山から流れてくる水を利用して田を作るというのは、稲づくりの始まりと言える。稲の原点をたどれば、インド東北部とそこに隣接する雲南地方の高地という説がある。高地で生まれ水陸に生育した稲は、そこから水田へと広がっていった。棚田は遠い稲作の歴史を語る、今に残る風景だ。誰もがこの風景に懐かしさを感じるのは、そこに命が育まれてきた記憶が身体に刻み込まれている故ではないだろうか。
暑すぎる夏が、一気に肌寒い季節を迎えた。今日は二十四節季の白露。夜露が降り、白く輝くように見える頃である。確かに朝の散歩で草むらに行くと、露にぬれている。スニーカーが濡れないかと気になるが、まだそれを厭うまではいかない。鴻雁来る、と記され冬の渡り鳥やってくる季節である。稲刈りのニュースが出てきた。棚田の稲刈りには今少し時間がありそうだが、そろそろ秋本番である。
稲みのりゆっくり曇る山の国 広瀬直人