常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

那須岳

2020年08月22日 | 登山
今週の山行は那須岳である。那須岳とは、茶臼岳を指すが、ここを主峰とする朝日岳、三本槍岳などの那須五山の総称でもある。那須と言えば知られているのは那須野である。茶臼岳が噴火したこの火山の裾野に広がる野原には、鹿などの野生の獣が多く生存し、馬を駆って矢で鳥獣を討つ狩りが盛んであった。平家物語に登場する矢の名手、那須与一はこの那須野に生れ、騎射の技術を磨いたと思われる。

また九尾伝説も那須を有名にした。鳥羽天皇をたぶらかした玉藻前は、九つの尾を持つ狐の妖怪であった。正体を見破らた玉藻前は、那須高原に逃げて石になった。殺生岩である。この石に近づく生きものは、石の毒にあたって死に絶え、蜂や蝶が、真砂の色も見えぬほどにかさなり死す、とかの芭蕉も「おくの細道」に書き残している。今は使われていないが、那須火山帯という火山の分類もある。北海道の利尻岳、有珠山、八甲田山、磐梯山、浅間山へと続く火山帯の呼び名だ。那須岳がそのなかにしっかりと含まれていた。
今回の山行では、那須ロープウェイ付近の駐車場に車を置き、そこから峰の茶屋跡を目指す。ここで、茶臼岳を尻目に、朝日岳(1896m)から三本槍岳(1917m)をめぐって帰るコースだ。台風に似た低気圧の北上で、週末はずっと雨天の予報だったが、この北上がやや遅れて、雨は3時過ぎてからの予報となった。朝靄のなか駐車場についたのは7時半過ぎ、ここで準備をして、歩き始めたのは8時であった。

峰の茶屋跡に来て、那須連山の印象は、その裾野雄大さそしてまだ活動を続ける活火山の魁偉である。実はこの地点に2度ほど立っている。しかし、この雄大さの印象はなく、岩道の先にあった朝日岳で、住んでいる所にある山と同じ山ぐらいしか記憶がないのだ。茶臼岳の岩峰のみが記憶の底にあり、ほかの景観は初めて目にする印象なのだ。じっとその雄大さに目を奪われていると、那須野には鹿や雉を追う狩りの達人が出てきそうな錯覚を覚える。ふと足元に目をやると、熊の残した大きな糞が目に入る。

高低差があまりないためか、遠くに見えた朝日岳も峠から1時間と少しで頂上に着く。週末とあって、登山客の姿が多い。コロナの自粛生活は、近くの山へと人々を誘うのか、登山道に蟻のの行列のような人影が動いている。すれ違う人たちも、すっかりストレスを発散させて、大自然の景観を満喫しているように見えた。
朝日岳を降りて11時過ぎ、三本槍岳へ向かう。この日の参加者は12名(内男性5名)、チームは全員が頗る元気。疲れた様子も見せず、12時30分頂上に着く。心配された天気もここまで、陽ざしが強すぎるほどである。デスタンスをとりながら頂上で昼食。下りは、思ったよりも順調に行く。空には少しづつ雲が広がり、峰の茶屋跡に着くごろ、ポツリポツリと雨。遠くに雷がなっている。下りでややスピードを上げて、3時半駐車場着。

峰の峠で微笑ましい光景を見た。降り始めた雨のなか、ポンチョを着た就学前の子どもたちのグループが元気よく下り始めていた。同行で歩きを見守る大人たちに大きな声で答えながら歩く姿は元気そのもの。「こんな小さな子を、こんな山に連れてくるのはすごいね」という仲間もいた。帰宅して、那須岳の案内書に、作家の谷恒生の手記が載っていた。そこには、娘の保育園時代にこの道を歩いた6歳の娘の姿が描かれていた。

「30°もある斜面を四つんばいになりながら登ってゆく。その懸命な姿に、幼児に備わった神秘的なバイタリティーを感じずにはいられなかった。那須岳の山頂にたどりつくと、私は娘を両手で高々とかかえあげた。娘の笑顔は、何故かとても誇らしげだった。」

この作家の追憶は、おそらく4、50年前のことであろう。すると保育園のこの夏の行事は伝統として半世紀以上続いているということになる。こんな小さな子たちが、荒々しい自然に触れることがいかに大切なことか。コロナの地球規模の感染の時代を生きていくこれからの生命にとって、その大切さは増すことばかりでけして減じていくこたはない。

帰路、高速道路に乗ってから、大きな雷鳴と経験したことないような大雨になった。雨のために、前方の視界がなくなるほどのすさまじさだ。福島県に入って雨は益々激しさを増す。車を運転するGさんの判断で、安達太良のサービスエリアで雨が小やみになるのを待つ。仮にこの雨雲が登山中に来たらと思うと恐怖を感じるほどであった。僥倖という言葉がぴったりする今日の山行であった。

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