高山正之 v 飯山陽『欺されないための中東入門』(ビジネス社)

宮崎正弘の国際情勢解題」 
    令和五年(2023)2月4日(土曜日)
       通算第7619号 <前日発行>

 

書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 
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 中東は劇的に情勢変化を遂げていた。まだイスラエル=悪と報道する時代遅れ
  日本の「中東専門家」も新聞特派員も現地で何を見聞きしているのだろう?

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高山正之 v 飯山陽『欺されないための中東入門』(ビジネス社)
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 これほどの辛口批評は珍しいが、日本の『中東専門家』や現地特派員たちが間抜け揃いで、節穴だらけがいかに多いかがよく分かるである。
 イランやトルコが親日国家だと多くの日本人は幻想に浸っている。バングラデシュでは親日国家転じて日本人が殺害され、アフガニスタンでは中村医師が殺害され、パキスタンも同様。なにが親日国家なものか!と矛盾点を衝く。
 トルコの鵺的な動静を見ていても親日国家としてのあり方がジェスチャーに見える。
 中東情勢は「アブラハム合意」によって革命的に変貌したことを日本人の多くは気がついてもいない。ふたりがまず重視するのが、このアブラハム合意である。
これによりイスラエルvsアラブという図式はふるくなり、実態と乖離しており、サウジを軸とする反イラン連合の形成が進んでいるのである。
 アブラハム合意はトランプ政権のもとで進捗し、アラブ首長国連邦とイスラエルの間の合意にとどまらずに、UAEとバーレーン、その後、スーダンやモロッコも加わり、なべてイスラエルとの関係正常化に踏み出した。それ以前にエジプト、ヨルダンとは正常化している。
パレスチナ問題はもはや主要国の外交的な関心事ではない。
背景はイランとの軍事緊張が高まったことで、イスラエル敵視は過去の呪詛でしかなくなった。
 日本の中東報道がなぜ貧しいか、あるいは当該国の情報操作にはまっているか、なかにはハニトラもあったことを社名と記者の実名入りで批判している。このあたり、すごい迫力がある。
ウクライナvsロシア戦争も、表から見た分析ではなく歴史の経緯を踏まえての複眼的な分析を展開されていて目から鱗が落ちること数カ所。これ一冊で本当に中東の裏舞台の真実がわかる。
日本の中東報道がいかにねじ曲がっていたか、またイスラム学者の殆どが左翼であることも納得できるのである。
 高山氏は中国に於いても漢族は異民族の奴隷だったのが中国史の真だったとし、「北狄が築いた殷であり、西戎の周であり、東夷の秦だった。要するに漢民族は外からやってきた異民族に支配され、その奴隷として歴史を生きてきた
 そこで発明されたのが「中華民族」なるでっち上げ用語で、煬帝もジンギスカーンも「中華民族」だから中国史の英雄となる。
 中国の始まりが殷で、これは北狄だったから格好が悪い。そこで夏」なる王朝があったことになった。じっさいに異民族が収めるとまつりごとはうまくいった。
 ならばと、習近平は「偉大なる中華民族の復興」などという途方もないスローガンを打ち出した。そして台湾侵略の牙を研ぐのである。 
高山氏は「悪質な歴史の嘘」であり、「中華民族というラーメン屋みたいな民族は存在しない」という。
 その中国はイランと石油取引で長期契約を結んでいる。
 飯山氏は「2021年、25カ年におよぶ包括的協力協定を結びました。イランが市価より大幅に値引きした価格で中国に石油を売り、中国はイランに4000億ドルもの投資をする
 イランは狂信的僧侶が国家を壟断していて、おなじく中華教狂信の北京と仲良し。問題は中東ばかりではない。なるほど、世界の悪の仕組みも本書を通じて把握できる。

 さて余談。中東から話題が離れるが、夏王朝なるものは紀元前21世紀から16世紀に存在したという最古の王朝で、殷の湯王に滅ぼされたと中国の史家が唱えているが、世界の歴史家は認めていない。神話時代の話である。
同年代の遺跡に二里頭遺跡があって、殷の建国(二里岡文化)に先行していることだけは確定している。この遺跡の宮殿区が回廊に囲まれており、中庭が広く正殿を配置する構造となっている。注目は翡翠の龍が出土したこと。龍は皇帝のシンボルである。

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