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「強い円」を掲げた速水総裁時代へ回帰か。日銀総裁人事、嵐の予感/倉山満の政局速報
「強い円」を掲げた速水総裁時代へ回帰か。日銀総裁人事、嵐の予感/倉山満の政局速報
政府は2月10日、日銀総裁として4月8日で任期満了となる黒田東彦氏の後任に、元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏を起用する方針を固めた。次期日銀総裁人事については、雨宮正佳副総裁に就任を打診したとの一部報道に対し、岸田文雄首相が「観測気球」と述べたばかり。驚きの声も少なくない。今回の日銀人事に対し、「嵐の予感がする」と語るのは、日銀人事の重要性について発信を続ける憲政史研究家の倉山満氏だ(以下、倉山満氏による寄稿)。
日銀人事は日本のすべて
日銀人事は日本のすべて。ずっと言い続けて追い続けてきた。しかし、凄い人選が飛んできたものだ。 岸田文雄首相は、植田和男東京大学名誉教授を次期総裁として提示すると日経新聞が報じ、他メディアも追随した。 直前に最も多くの人名を挙げていたのが、2月3日のロイターワールド「日銀正副総裁人事 有力候補の経歴や政策観」だった。
そこに挙げられている名前が、雨宮正佳・日銀副総裁、中曽宏・前日銀副総裁、山口広秀・元日銀副総裁、浅川雅嗣・ADB総裁、岡本薫明・元財務次官、木下康司・元財務次官、伊藤隆敏・コロンビア大学教授、氷見野良三・前金融庁長官、内田真一・日銀理事、清水季子・日銀理事、翁百合・日本総研理事長、白井さゆり・元日銀審議委員。
それぞれの経歴とスタンスが簡潔にまとめられている。副総裁の二人はマークしていて、良記事だ。そのロイターの中にも、植田氏の名前はない。まったくのノーマークだ。私も意外だった。
円高誘導政策を推進した、速水総裁の時代に戻そうとの意志
では、植田氏とはどんな人物か。最近では、黒田日銀に理解を示していると報じられている(日本経済新聞「植田和男氏『日本、拙速な引き締め避けよ 物価上昇局面の金融政策』」)。
この一事を以って、「安心せよ」と言う訳にはいかない。さすがに市場のプロは不安を隠せない。株式市場は閉まっている時間のリークだが、円相場は動き、1円円高に振れた。6日に日経が「雨宮氏に打診」と報じた時には安心感で1円円安に動いたのと逆だ。私は、「雨宮総裁」に警戒せよと説いてきたが、「植田総裁」ならばなおさらだ。
では、新総裁に就任が濃厚の植田氏とは、どんな人物か。一言で言えば、速水優総裁時代の日銀審議委員だ。ポスト黒田で「白川時代に戻してよいのか」との懸念はあったが、生ぬるい。「強い円」を掲げ、円高誘導政策を推進した、速水総裁の時代に戻そうとの意志だ。
植田和男は良く言えば中庸、悪く言えばカメレオン
植田氏に関しては、良く言えば中庸、悪く言えばカメレオンとの評が一致するところだ。2000年8月、速水総裁は「早すぎるゼロ金利政策解除」を行った。これに植田氏は、リフレ派の中原伸之委員とともに反対した。しかし、いつのまにか賛成に回り、その理由が「一度決めたことは変えるべきではない」だった。常に少数派として振舞い、気骨の人として知られた中原氏は唖然としたとか。「カメレオン」の本領発揮である。この間、植田氏に対し、どんな“説得”がなされたのかは知らない。
主著『ゼロ金利との闘い』は、当時の白川方明総裁と山口廣秀副総裁に草稿を見てもらいながら仕上げたと謝辞を述べた本だ。植田氏のスタンスは、「日銀理論」の権化とも言うべき早川英男元理事が絶賛するほど。一方でリフレ派重鎮の浜田宏一イェール大学教授の対談の申し込みは「片一方に与している人とは」と断ったことがある。
根は反リフレ派にすぎない植田氏の姿勢
リフレ派総帥の岩田規久男学習院大学教授(後に日銀副総裁)が、翁邦雄(日銀出身、多くの大学で教授)とマネーサプライ論争を繰り広げたのを裁定したのは、植田氏だ。この論争は日銀のマネーサプライを増やす、つまり日銀がお札を刷れば景気を上向けられるかについての論争だ。速水優・福井俊彦・白川方明の三代の総裁は翁氏の理論に従い、景気回復に失敗した。岩田氏は自らが副総裁として日銀に乗り込み、岩田氏の理論通りに黒田日銀はデフレ完全脱却手前まで持ってきた。
正確に言うと、福井総裁は金融緩和を行ったが、当時の首相の小泉純一郎の退陣が政治日程に入った瞬間に解除、景気回復を潰した。黒田総裁は、消費増税により、景気回復の効果を減殺された。いずれにしても、岩田氏の主張は正しかった。
さて、植田氏の岩田翁論争に関する裁定である。「どちらにも一理ある」である。これにリフレ派の面々は「最低の裁定」と恨みを語り継いでいる。植田氏は、中庸と言っても、根は反リフレ派なのだ。一時的に黒田総裁の路線に理解を示す発言をしても、「カメレオン」である。こうした姿勢が、マーケットに伝わっているのだ。
笑いが止まらない日銀と複雑な財務官僚
さて、副総裁人事だ。
日銀の総裁は5年任期、プロパーと財務省(旧大蔵省)出身者が交互に正副総裁に就く、「たすきがけ人事」が慣行だ。だから日銀では10年に1度の総裁候補は「プリンス」と呼ばれる。雨宮現副総裁がそうだった。その次の「プリンス」は、次期副総裁に推される予定とほじられる内田真一理事。
雨宮氏が総裁になれなかった事情は今後明らかになるだろうが、一説には本人が固辞したとも。とはいえ、日銀はプリンスの次期総裁の座を確保した。今回、学者出身の植田氏が就いたことで「たすきがけ」は破られたが、植田氏も身内のようなもの。日銀としては笑いが止まらない。
一方、財務官僚にとって、日銀総裁は「ロイヤルロード」と言われる最高の天下り先。現在の黒田総裁こそ例外だが、事務次官経験者の指定席だ。その座を、本流の事務次官を経験していない、傍流の氷見野前金融庁長官にさらわれるとあって、よいのだろうか。
岸田首相は、ここまで愚かと思わなかった
第一報を聞いた瞬間は「岸田首相は、ここまで愚かと思わなかった」だ。もちろん、カメレオンの本領を発揮して、植田新総裁がマトモな経済政策を行い、日本を救ってくれるかもしれない。しかし、油断は禁物だ。
今後は、政治や経済の情報に敏感になり、生き延びねばならないだろう。 嵐の予感しかしない。 ならば、自らの手で運命を切り開くしかない。
かつては、松下康雄総裁のように、任期途中でスキャンダルによる退陣に追い込まれた総裁もいる。決めつけないで、あらゆる事態に備えることだ。とは言うものの、この人選――白川どころか速水に戻る――には驚いたが。
’73年、香川県生まれ。憲政史研究者。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。主著にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』や、『13歳からの「くにまもり」』を代表とする保守五部作(すべて扶桑社刊)などがある。『沈鬱の平成政治史』が発売中
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