中東では 性急な改革が成功することはない

加瀬英明

中東は砂丘に似ている 2017/12/26

 私は11月に、6ヶ月ぶりにワシントンに戻った。

 これまでワシントンでサウジアラビアの一般のイメージは専門家を除けば、灼熱の砂漠、棗椰子(なつめやし)と駱駝と、石油マネーの神秘的な国だったが、突然この国に関心が集まっていた。

 11月に、32歳のモハメド・ビン・サルマン皇太子が、有力だった王子グループを拘留して国政を掌握した。サウジアラビアでは王族(プリンス)たちのコンセンサスによって、政治が行われてきたから、クーデターである。

 逮捕されたプリンスたちは、首都リディアで贅をきわめるリッツ・ホテルから、一般客を追い出して幽閉されたから、この国らしい。

 皇太子は2030年までに石油依存から脱却して、近代国家を建設する目標を掲げている。サウジアラビアは中東でもっとも保守的な宗教国家であってきたが、経済改革とともに、女性が目だけをだして全身を衣で覆うことを定め、家族の男性の同伴なしに外出したり、自動車の運転を禁じていたのを、自由にする意向を示している。

 これまでイスラムの厳しい戒律によって、映画館や、演劇場が一つもなかったが、許可されることになった。大改革だ。

 皇太子の政権奪取は、シリアでIS(イスラム国)が壊滅し、イランが支援するアサド政権が勝ったことによって、強い危機感に駆られたためといわれる。直前に、内戦中の隣国イエメンで、イランが操るフーシ派の反乱軍が、リディアへ向けてミサイルを発射した。

 そのために、サルマン皇太子はイランと対抗するために、イスラエルと事実上の同盟関係を結んだ。すでに皇太子は極秘裡に、イスラエルを訪れている。イスラエルは隣国レバノンで、イランが支援する民兵ヒズボラの脅威を蒙っている。

 今回の皇太子による実権掌握は、トランプ大統領の承認を受けたものとみられる。トランプ大統領の娘のイバンカが東京を訪れていた時に、夫君のJ・クシュナー氏がリディアを訪れていた。

 皇太子の「2030年改革計画」は、アブダビを手本にしているといわれる。

 私は性急な改革が成功することはない思う。かつてイランで、パーレビ皇帝が改革を性急に進めたために、革命が起って帝政が倒れた。

 『ニューヨーク・タイムズ』紙がサルマン皇太子の実権掌握を、正真の「アラブの春」と称えているが、2011年にチュニジアで民衆が蜂起した時に、アメリカは「アラブの春」と呼んだ。その結果、リビア、シリアが内戦に陥り、エジプトでムバラク政権が倒れた。

 私は中東の研究者だが、1980年にレバノンのベイルートを占領していた、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長に招かれて、会ったことがあった。その時に、アラファト議長が「中東は砂丘のように、ある時、様相が一変する」と、語った。

 アラビア半島が大混乱に陥った時に、いまアメリカは東アジアと中東の2正面を、同時に守る軍事力を持っていない。
 東アジアが留守になった時に、日本は北朝鮮、中国に対抗することができるのだろうか。

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