「星を動かそうとすると寿命をなくすって、ちゃんと書き残しといたのに、ばかね」
罵倒の言葉ではあっても、口調だけは柔らかい。
確かに消えないように、つぶれないように、それだけは伝わるようにとそこかしこに警告として残されていた文言だ。
「こういう意味だとは思ってもみませんでした」
不老不死。もしかしたら憧れる者もいるかもしれない。ただの長い孤独と似た意味でしかないものではあるが。
シャール家の者とわかる出で立ち。外見は妙齢の女性だが、決定的に色気を感じない。体型にメリハリがないとか、女性らしさがないとかそういうことでなく。わからないものが見ればすこぶる魅力的に見えるだろうが、人を越えてしまっている部分がそれとわかる者には最初から無理物件。
「残念ながらそういう意味よ。死にたくなったら粉微塵にしてあげるから言って頂戴。死ねなくても風と土くらいにはなれるでしょ」
外見に合わせて出で立ちと口調を作ってはいるが、内実の性別はないとうちの先祖が書いていた。
「痛み入ります。そのときは是非」
大魔導アッシェズローズ。確か、人としての名前はラティーナ・ルイーカ・シャール。
最初に破壊神を封じた八聖の一人。
「リデュ・ノナって、ご大層な名前ね」
予言師でも何でもない、見えたものを語るだけ。変えることはできない。異名は変に重たい。
「汗顔の至りです、アッシェズローズ様」
丁寧に名を呼んでから自分の体を見下ろす。
「生きていること自体がその人にとって災厄なら、効果ないわよ」
アッシェズローズはあらかじめ認めた者にしかその名を呼ぶことを許していない。うかつに呼べばちょっとした災厄とともに命を落とすと……伝承通りなのに、伝承通りじゃないのか。
「ラスケス、ここは私が居住地として使っているの。他に行って頂戴」
狭間の空間。別の世界への扉の中とも言うべきか。
他人のいない場所を求めたら、たまたま偉大な先達がいたというだけ。
名乗りもしないうちからこちらの名を呼んだと言うことは、同じように見える人なのだろうか。
「承知しました。ご先祖様、立ち去る前にいくつか伺いたいことが」
「子はいないわね」
「ナナ女王は、そんな感じで良いって書き残しておられましたが」
「じゃあいいわ」
いいのかよ。
ともかく、古い文献を漁っといて良かった。
ナナ女王は日記がかなりの割合ででエロ小説だが(そう読めないように書いているつもりなのはわかる程度で)、本名がわからない。夫のフィルバートは今では俺の嫁という意味でしかない言葉で書き残していて、名を隠す人と言うことは、つまり。
「ナナ女王は竜人だったのですか?」
「そうよ」
「ご存命でいらっしゃるのでしょうか」
「知らないわ」
「ご友人だと」
「そうね」
声はいちいち素っ気ない。
「ラスケス、竜人にも寿命はあるのよ」
微笑みは他の疑問を打ち消した。一番聞いてはいけないことを一番最初に聞いてしまったようだ。
「人は自分の理解や共感が及ばない人や部分に対して、おそろしく残酷になってしまうことがあるんですって」
「うちの先祖が言ってたと書いてましたね」
「フィルバートにとっては、一応、人みたいなのよね、わたしでも」
「個体名:アッシェズローズ、種族名:ラティーナと分類しているようだとナナ女王は書いていましたが」
「サナルドだって種族名:聖王だったもの」
記録を読んでいてうすうす感じてはいたが、うちの先祖もだいぶおかしい人だったのはまあわかる。
「その友人の夫として認めたうちの先祖にえげつない薬盛ったって記録があるんですけど、その話ですよね」
夜這う友人の後押しとして。
鋼鉄の理性と裏で呼ばれていた先祖が(比べれば鋼鉄の方が柔い気がする)その事実を聞いて思わずアッシェズローズの首を絞めかけたと。
「そんなにひどかったかしら」
「原材料の羅列見ただけでえぐいの丸わかりです」
記述は塗りつぶされていたが、読める者には読める仕様になっている。
「だって、一発勝負みたいなものだったし、思い切っていいかなって」
「思い切りすぎです。一部の裏家業で今も現役で拷問に使われています」
「ちゃんと塗りつぶしたのに」
あんなの盛られて目の前のご婦人を説得して家に送り届けるなど人外の所業だ。送り届けたご婦人の方が実際には人外だったわけだが。
「そういうのは好事家が全力で解析するんですよ」
残念ながら、そういうものだ。
「一応反省しておくわ」
少しの反省したそぶりもなく、伝説の大魔導はうなずいた。
余計な質問をした分は取り戻せたろうか。
色々踏ん切りがついたら、粉微塵にしてもらいに来るとしよう。
「それでは、別の場所を探しますので、ごきげんようご先祖様」
入り口が思い出せるうちに片付くと良いのだが。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
タイムアタック敗北。日付をまたぎました。
アッシェズローズとナナはそれぞれの魔女っ子ネームみたいなやつです。
フィルバートはモノローグでナナを妻と言っていますがサイと読んでねって昨日書き忘れました。また頭の中ではラティーナですが、呼ぶときはちゃんと「アッシェズローズ様」です。うっかりでラティーナ呼びしたことはありません。
罵倒の言葉ではあっても、口調だけは柔らかい。
確かに消えないように、つぶれないように、それだけは伝わるようにとそこかしこに警告として残されていた文言だ。
「こういう意味だとは思ってもみませんでした」
不老不死。もしかしたら憧れる者もいるかもしれない。ただの長い孤独と似た意味でしかないものではあるが。
シャール家の者とわかる出で立ち。外見は妙齢の女性だが、決定的に色気を感じない。体型にメリハリがないとか、女性らしさがないとかそういうことでなく。わからないものが見ればすこぶる魅力的に見えるだろうが、人を越えてしまっている部分がそれとわかる者には最初から無理物件。
「残念ながらそういう意味よ。死にたくなったら粉微塵にしてあげるから言って頂戴。死ねなくても風と土くらいにはなれるでしょ」
外見に合わせて出で立ちと口調を作ってはいるが、内実の性別はないとうちの先祖が書いていた。
「痛み入ります。そのときは是非」
大魔導アッシェズローズ。確か、人としての名前はラティーナ・ルイーカ・シャール。
最初に破壊神を封じた八聖の一人。
「リデュ・ノナって、ご大層な名前ね」
予言師でも何でもない、見えたものを語るだけ。変えることはできない。異名は変に重たい。
「汗顔の至りです、アッシェズローズ様」
丁寧に名を呼んでから自分の体を見下ろす。
「生きていること自体がその人にとって災厄なら、効果ないわよ」
アッシェズローズはあらかじめ認めた者にしかその名を呼ぶことを許していない。うかつに呼べばちょっとした災厄とともに命を落とすと……伝承通りなのに、伝承通りじゃないのか。
「ラスケス、ここは私が居住地として使っているの。他に行って頂戴」
狭間の空間。別の世界への扉の中とも言うべきか。
他人のいない場所を求めたら、たまたま偉大な先達がいたというだけ。
名乗りもしないうちからこちらの名を呼んだと言うことは、同じように見える人なのだろうか。
「承知しました。ご先祖様、立ち去る前にいくつか伺いたいことが」
「子はいないわね」
「ナナ女王は、そんな感じで良いって書き残しておられましたが」
「じゃあいいわ」
いいのかよ。
ともかく、古い文献を漁っといて良かった。
ナナ女王は日記がかなりの割合ででエロ小説だが(そう読めないように書いているつもりなのはわかる程度で)、本名がわからない。夫のフィルバートは今では俺の嫁という意味でしかない言葉で書き残していて、名を隠す人と言うことは、つまり。
「ナナ女王は竜人だったのですか?」
「そうよ」
「ご存命でいらっしゃるのでしょうか」
「知らないわ」
「ご友人だと」
「そうね」
声はいちいち素っ気ない。
「ラスケス、竜人にも寿命はあるのよ」
微笑みは他の疑問を打ち消した。一番聞いてはいけないことを一番最初に聞いてしまったようだ。
「人は自分の理解や共感が及ばない人や部分に対して、おそろしく残酷になってしまうことがあるんですって」
「うちの先祖が言ってたと書いてましたね」
「フィルバートにとっては、一応、人みたいなのよね、わたしでも」
「個体名:アッシェズローズ、種族名:ラティーナと分類しているようだとナナ女王は書いていましたが」
「サナルドだって種族名:聖王だったもの」
記録を読んでいてうすうす感じてはいたが、うちの先祖もだいぶおかしい人だったのはまあわかる。
「その友人の夫として認めたうちの先祖にえげつない薬盛ったって記録があるんですけど、その話ですよね」
夜這う友人の後押しとして。
鋼鉄の理性と裏で呼ばれていた先祖が(比べれば鋼鉄の方が柔い気がする)その事実を聞いて思わずアッシェズローズの首を絞めかけたと。
「そんなにひどかったかしら」
「原材料の羅列見ただけでえぐいの丸わかりです」
記述は塗りつぶされていたが、読める者には読める仕様になっている。
「だって、一発勝負みたいなものだったし、思い切っていいかなって」
「思い切りすぎです。一部の裏家業で今も現役で拷問に使われています」
「ちゃんと塗りつぶしたのに」
あんなの盛られて目の前のご婦人を説得して家に送り届けるなど人外の所業だ。送り届けたご婦人の方が実際には人外だったわけだが。
「そういうのは好事家が全力で解析するんですよ」
残念ながら、そういうものだ。
「一応反省しておくわ」
少しの反省したそぶりもなく、伝説の大魔導はうなずいた。
余計な質問をした分は取り戻せたろうか。
色々踏ん切りがついたら、粉微塵にしてもらいに来るとしよう。
「それでは、別の場所を探しますので、ごきげんようご先祖様」
入り口が思い出せるうちに片付くと良いのだが。
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タイムアタック敗北。日付をまたぎました。
アッシェズローズとナナはそれぞれの魔女っ子ネームみたいなやつです。
フィルバートはモノローグでナナを妻と言っていますがサイと読んでねって昨日書き忘れました。また頭の中ではラティーナですが、呼ぶときはちゃんと「アッシェズローズ様」です。うっかりでラティーナ呼びしたことはありません。
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