minga日記

minga、東京ミュージックシーンで活動する女サックス吹きの日記

「誰がヴァイオリンを殺したか」石井宏著

2007年04月12日 | 映画、本、芝居関係
 パガニーニの伝記を探していたら、こんな本に巡り会った。「誰がヴァイオリンを殺したか」タイトルが仰々しいのでどんなもんかいな~、と不安になりつつ読んで行くと・・・すっかり夢中になって一気に読み終えてしまった。

 ストラディバリウスが何故銘器と呼ばれているのか。何故、技術的に進歩している現在このような銘器が制作されないのか。これらの銘器に鑑定をつけ、評価付けをしていったヒル一族の話。目からウロコの数々のお話がいっぱい詰まっている。

 作者が現在もクレモーナでヴァイオリンを制作している工匠に「あなたの楽器の愛好家たちが大勢います。中でもあなたの楽器の音色が気に入っているという人がいますが、制作者のあなたは音色の特徴についてどうお考えですか?」とインタビューすると「あらゆるヴァイオリンには固有の音色なんてありませんよ。ヴァイオリンから聴こえてくる音というのは、すべてその弾き手の音です。別の人が弾けば別の音がします。」

 そう、そうなんだよ~!サックスも同じ。むか~し、友人の結婚パーティで私の楽器を使って、坂田明氏と林栄一氏が一曲づつ演奏する事になったのだが、みんなそれぞれの音色が出て三者三様でおかしかった。

 ずいぶん前になるが、高いアメセルに買い替えようかと思って試し吹きをして「AとBとどっちがいい音?」ってみんなにブラインドテストしたら『どっちの音もさっちゃんの音みたいだけど(苦笑)、A (使っている安いアルト)の音の方がいい』と一斉に答えたので、慌てて買うのをやめた事もあったっけ。自分の音っていうのは、楽器をかえたからってそうそうは変らないんだな。

 もうひとつ面白かったのは「ベースやヴァイオリンのような木の楽器は時間が経てば経つ程価値のあがるものだ。」と信じ込んでいた私。サックスは時間が経てばピークを過ぎてあとはヤカンにしかならない、と思っていたらヴァイオリンも同じ事だった。

 木の消耗が激しい事をサックスのリードに例えていたのでわかりやすかったが、確かにリードは良く鳴るピークが2、3日あって、それ以降はどんどんへたって行くばかり。ヴァイオリンの木も同じで、ましてやプロの演奏家が使用していたら、一日に何時間も弾いているから1代で終わったとしてもかなり楽器自体は鳴りきってしまい、消耗しているのだ。

 銘器と言われている楽器ほど、プロに使われていたものも多く、消耗が激しいので楽器(演奏用)としての価値は本来低いものが多いらしい。それでも何千万なんていう値段がついているのは殆ど骨董品としての価値だけらしい。

 パガニーニの時代のバイオリンの音色、一体どんなものだったのかとっても聴いてみたい!と思わせるかなり面白い本でした。