鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『大幸運食堂:明川哲也・著』

2011-09-07 22:54:10 | Weblog
乾いた晴天。秋の風。


久々の明川哲也さんの小説集。
川沿いに住む普通のひと達の普通の生活の中で、傷ついたり、悲しかったり、それでも、普通に生きていくこと・・・明川さんの優しい視点で、描かれる連作8編の短編集。
1日にひとつかふたつ・・・楽しみながら読ませていただきました。

黒猫のミーコちゃんは、無人の野菜販売所で、優しい農家の主婦の雅代さんに拾われる・・・
『どうして、アタシは、こんな不幸な目にあっているの?』
ずぶ濡れの子猫の問いが聞こえてくるのは、優しいから・・・。
心無い人たちには、たぶん、聞こえない。

友達のいない雅之君。
絵が上手な中学生で、繊細な感性のアーティスト。
その感性が、粗雑な同級生とは、合わない・・・合わないから、台風で、かき回された川で、瀕死の魚達を、川に返してやる・・・彼の母親の言うように、これは『偽善』なのかもしれない・・・。
河原に住むホームレスに絵の視点を教わり、急速にその才能を伸ばすけれども・・・。

克之君とマル君の別れは、無数に飛ぶ蛍達に見守られ、少年時代に別れを告げる・・・。

どのお話も少し悲しくて、優しい。
こころない仕打ちに傷つくのは、優しいひとだ。
優しいひとのこころを踏みにじっても、罪悪感さえ感じない・・・罪悪感ということさえ、わからないひとも多い。

『ダメな日は、だめな日なりに、毎日を味わって生きていきなさいね。笑っていればいいことよ。』
経済的に追い込まれ、母親の死に目に会えなかった良美さんは、月明かりのしたで、母親の最後のメッセージを受け取る・・・。

そうだね・・・ダメなときは、きっと何をやってもダメなんだ・・・運命を呪ったって仕方ない。
ダメ、辛い、悲しい、どうしようもない・・・そんなどん底も、味わい尽くしてしまおう。
これが、『どん底』の味だって・・・。