『遺灰は語る』(原題:Leonora Addio)
監督:パオロ・タヴィアーニ
出演:ファブリツィオ・フェラカーネ,マッテオ・ピッティルーティ,
ダニア・マリーノ,ドラ・ベッカー,クラウディオ・ビガリ他
声の出演:ロベルト・エルリツカ
予定外の時間ができたためにシネ・リーブル梅田にて3本ハシゴの2本目。
時間がちょうどよかったという理由のみで観てみたら、意外と面白かった。
イタリアの名匠タヴィアーニ兄弟は、カット数の半分ずつを演出するという独特の方法で
『グッドモーニング・バビロン!』(1987)など数々の作品を撮ってきました。
しかし兄のヴィットリオが2018年に他界し、弟のパオロはひとりで撮らざるを得ない状況に。
本作はパオロが91歳にして初めて単独で監督を務めた作品なのだそうです。
タヴィアーニ兄弟の『カオス・シチリア物語』(1984)の原作者は、
受賞の2年後に69歳で亡くなったピランデルロの遺灰を主人公にしています。
今際のきわのピランデルロと臨終後の彼が私たちに話しかけてくれます(笑)。
しかし戦時中、独裁者ムッソリーニはノーベル賞作家の遺灰を手放そうとしない。
戦争が終わり、ようやくピランデルロの遺灰はシチリアに帰還することになるのだが……。
簡単には帰れないのです。
ローマまで遺灰を引き取りに行って、シチリアへ戻ってくることになったお役人は、
シチリア島民の騒ぎぶりを心配しています。
そりゃノーベル賞作家だよ、島の英雄だよ、だけどそないにドキドキせんでもええがな。
まずはローマの石壁の中に「仮置き」されている壺に入った遺灰を出さなければ。
石を叩き割って壺を取り出す作業を現地の若い職人に任せると、とにかく雑。
「もっと丁寧に、気をつけて」と声をかけても「たかが壺だろ」と言われてしまう。
なんとか無傷で取り出した壺を米軍のプロペラ機でシチリアまで運ぶ約束を取り付けたのに、
同乗予定だった民間人が「その木箱の中身はピランデルロ先生の遺灰では?」と言い出す。
「そうですよ」と答えると、ありがたがるのかと思いきや、
死体と一緒に飛行機に乗るなんて不吉なことこのうえないと全員降りてしまう。
しかも米国人のパイロットまで、プロペラ機が故障して飛べないと嘘をつく始末。
結局列車で運ばれることになった遺灰ですが、途中で行方不明に。
なんとトランプゲームのテーブルに使われていて、お役人はもう涙目です(笑)。
シチリアに無事に着いたら着いたで、教会はギリシャの壺に十字を切ることに納得できない。
ならばこの壺をキリスト教式の棺桶に入れたらええんじゃないのと言い出す人がいて、
それはナイスアイデアだと手を打ったら、流行病で棺桶の需要が多いせいで、
今は子ども用の棺桶しかないというではないですか。
「棺桶ちっちゃいね」「死んだのは子ども?」「じゃあ小人か」と言って、
公道で葬儀を見守る市民がクスクスと笑い出す。
遺灰を運ぶのにこんなにも苦労するなんて。よそで死ぬ、しかも有名人だと大変です。
エピローグとして、ピランデルロの短編小説『釘』の映像化作品が収録されています。
本編は全編モノクロで、このエピローグだけカラー。不思議な作品でした。
ノーマークだっただけに、ちょっと楽しかった。