このブログを読んでくれている長女のダンナが「『絶歌』は手に入りましたか?」と言って、真新しい本を渡してくれた。書店では既に売り切れだった。店員さんに「入荷の見込みはありますか?」と尋ねると、「何ともいえないけれど、入ったらすぐ連絡します」と言われ、注文書に電話番号を書き込んできた。『絶歌』については賛否両論あり、出版社を非難する声も少なくないが、「被害者に失礼だ」と言う人が多い。
出版は被害家族にとっては逆撫でされる思いだろう。被害者には思い出したくない残虐な事件で、殺害された子は戻らないし、傷つけられた子は恐怖に呼び戻される。それでも私は、少年Aがなぜ事件を犯したのか、彼自身がどのように考えているのか知りたいと思った。彼と自分の相違点・共通点を確かめておきたいと思った。年齢も違うし環境も違う。それでもふと自分が犯罪者にならずに生きてこられた境目はどこだろうと思う。
先日の小学校のクラス会で、男子の少なくない人たちが中学を卒業するとそのまま地元の大企業に就職したと知った。「金の卵とおだてられてさ」と言う。九州や四国から集団就職でやってきた人たちを「金の卵」と呼んでいたとばかり思っていたが、地元の子どもたちもそんな風に呼ばれていたのか。「夜間高校へ通ったけど、眠くてなかなか勉強でなかった。5年かけて卒業し給料が上がるのかと思ったら、やっぱり中卒扱いだった」と話してくれた。
昨夜、書店から『絶歌』が入荷したと電話があった。今朝、書店に行き事情を説明したら、「キャンセルですね」と言われた。「キャンセルしてもいいのですか?」と念を押すと、「大丈夫ですよ」と答えてくれた。見ると『絶歌』が山積みされている。その横に1冊、『「少年A」この子を生んで‥「少年A」の父母』と題する文春文庫が置いてある。私はすぐレジに持ち込んだ。少年Aの父親が何歳なのか知らないが、彼は中学を卒業して夢見るように神戸にやって来たと知る。
普通のお父さん、お母さんが、子どもたちを暖かく見守り育ててきた。「ウソをつかない人であれ」とだけ教え、勉強のことはうるさく言わなかった。ごくごく普通のニューファミリーだ。同級生に毒を飲ませ、高齢の女性を殺害した名大の女子学生の両親も我が子の行為を理解できないだろう。被害家族は少年Aに対して賠償を求めている。印税はそのために役立てられるだろう。