マンションのツツジが満開だ。今日は風が強い。黄砂なのか、遠くが煙ってみえる。私の左目は花粉症なのか、黄砂のためなのか、痒くて涙が止まらない。鼻水も止まらない。最悪の状態だ。こんな日は考えることも面倒になる。家の外に出れば鼻水は止まるのに、家の中ではクシャミも酷い。先輩は「花粉症になったことはないが、どこで打ったのか分からない傷がある」と腕を見せる。祖父も血が流れているのに傷に気が付かないことがあったが、年寄りは痛みの感覚も薄れてしまうのだろうか。
私たちが井戸掘りに向けて道具の準備をしていると、同年配と思われる男が軽トラで私たちの前を行き来している。私たちに関心がありそうだ。文句のひとつでも言いたいのだろうか。男が車を止めてやって来た。「あんたたちはこちらの人かね」と言う。私たちはたまたま場所を借りて作業をしているに過ぎないが、場所の持ち主へ苦言でもあるのだろうか。
「知り合いのところですが、どうされました?」と私が答えると、「この向こうの道端に、鉄板が落ちていて困っている。3人もいれば持ち上げられるんだが‥」と言う。そうか文句ではなく助けが欲しかったのか。「いいですよ。お手伝いしますから、先導してください」と答える。「もうひとつ、冷蔵庫も放ってあるんだが‥」と遠慮がちに言うので、「それも運びましょう」と答える。
男についていくと、ガード下にまだ真新しい冷蔵庫が放ってある。さらに屋根に使っただろう鉄板の一部が落ちていた。車で運ぶ途中に落したのだろう。知らずに通れば大事故になりかねない。2つを作業場に借りている場所に運ぶ。カミさんに話すと「おせっかいな人ね」と呆れて言う。「困っているのに、知らないと言うの?」と聞いてみる。「どんな人なのかも分からないのに、よくやるわね」と皮肉を込めて言う。
困っている人がいるのに無視は出来ない。みんなが「やらない」と言っても、私は手を出すだろう。幸いなことにみんなはこういうことに積極的だ。見て見ぬふりなど出来ないのだ。関わりたくないと無視することはしない。そこが若い人と違う「情けは人の為ならず」の世代だ。