肛門から内視鏡を入れる大腸の検査を受けた。正月から右の脇腹が時々痛くなることがあった。医師に相談すると「下腹部のCT検査と大腸の内視鏡検査をしましょう」と言う。そんなに大げさな検査はしたくなかったが、失礼な言い方だが、私のように医療費の自己負担ゼロの患者は医院にとっては収入になる。私のかかりつけの医師は真面目なのか、滅多に特別なことを勧めない。だから医師から言われると「分かりました」と言う他ない。
CT検査では「前立腺が少し腫れていますが、まあ、歳相応でしょう」と言われた。大腸の内視鏡検査では、「大腸の皮は意外に薄いので、腸の壁を破ることもあります」と事前にリスクの説明を受けた。「大丈夫です」と言われる方が安心で、万が一の事故の話を聞かされると止めた方がよいとも思えてくる。可愛い看護婦さんが、「痛い時は痛いと言ってくださっていいですからね」と念を押す。
簡単な検査と思ったが、そうまで言われると不安になる。いざ、ベッドに横たわり、肛門に当たったと思ったらもう入っている。内視鏡の先端がどこを通過しているのか、自分でも分かる。医師がブツブツ言いながら器具を操作している。何やら気体を注入して中の様子を見るのだが、「ウッ」と息が出来ないくらい痛い。歯を食いしばり、身体全体に力が入る。可愛い看護婦さんが私を見つめて、「大丈夫?」という顔をする。私は少し笑って、「ウン」と頷く。
医師が画面を見せて、「これが大腸の先端です。これから少しずつ下りますね」と言い、「きれいなものです。この窪みが憩室ですが、問題ありません」と説明する。「はい、何もありませんでした。普通に生活して結構ですよ」と言ってから、「念のため今晩はお酒はやめておきましょう」と言って笑う。
美味しいものを食べ、美味しい酒を飲む。それを止めてまで長生きしたくないと医師に話したことを覚えていてくれたのだ。「適度な運動もしてね」と医師がまた笑う。「はい」と答えたが、「好きだった女性にもう一度会えるなら」と付け加えたかった。