姉の見舞いに行ってきた。玄関を入ったところにマスクをするようにと掲示がしてあるので、私たちはマスクをしていった。部屋に入ると姉がみんなを見回していたので、「誰だか分かる?」と聞くと、「それほどボケていません」と言う。姉が私に「(何かを)ちゃんとやりなさいよ」と言うので、「はい、分かりました」としおらしく答えると、姪っ子が「どんなに年取っても、お兄ちゃんのお姉さんだ」と茶化すと、「当たり前、歳を超すことは出来ません」と言う。
今日はとても調子がいい。冗談を言ってもすぐに反応するし、言うことは正論だ。妹の娘の中学1年になった男の子はなかなかユニークで、勉強はしないのにテストの成績がいい。「中学は小学校のようにはいかないから」と姪っ子が心配する。姪っ子の長男も自分の好きなことには没頭するが、嫌いなことには見向きもしなかった。学校でテストがあり、百点取っても教室のゴミ箱に捨てて来てしまう。
「担任がそれを拾い上げ、父兄懇談の時に見せられ、恥ずかしかった」と姪っ子は言う。先生に注意され、親から叱られても全く意に介さない。高校進学もせっかく有名校に合格しながらこれを蹴って、高専に進み、名工大を卒業した変わり者だ。そんな話をしていると姉が私を振り返り、「あんたはどうだった?」と聞く。「私はそんな優秀な天才ではなく、小さい時からいい子で育ったから」と答えると、カミさんの方を見て「あなたの方がもっと優秀だよね」と言う。
それで、みんなで大笑いしたけれど、ボケているとは思えない会話のやり取りだった。今度は妹に「あんたはどう?」と聞く。「私は勉強嫌いだった」と答えると、「嫌いなら仕方ないね」と真顔で言う。「いや、中学2年でお母さんを亡くし高校進学を相談する相手もなく、高校1年でお父さんが死んだから、一番苦労したと思う。小遣いは誰にもらっていた?」と私が妹に訪ねると、「覚えていない」と答える。小遣いがもらえるような状況になかったのが本当のところだった。