風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国とイギリス・後日談

2015-10-25 00:10:20 | 時事放談
 習近平国家主席による英国訪問について、産経Webあたりは何とか粗を探したいらしい。
 もてなした側のイギリスでは、早速、巨額契約締結後に行われた両首脳の共同記者会見で、英BBC放送の女性記者が「習主席、英国民は、民主主義がなく、不透明で人権に大きな問題を抱えた国とのビジネスが拡大することを、なぜ喜ばなければならないのでしょうか」と不躾な質問をぶつけたことに、キャメロン首相は苦り切って「人権か、ビジネスかという質問の前提にはまったく賛成できない。5年、首相を務めて思うのは、両方が重要だということだ。経済関係が強固になれば、双方の関係も深まり、それ以外の問題でも率直な議論ができるようになる」と反論し、隣の習主席の方を見ながら、同じ内容の発言を繰り返したものの、習主席は「われわれは現実に即した人権発展の道を見つけた。人権は大切であるが、世界を見渡せば、すべての国で改善が必要な状況にある」と、はぐらかしたという。なんだか今回の両者の関係を象徴するようなやりとりではないだろうか。別の英国人記者は「(記者会見の)時間が限られているとはいえ、あまりにひどい内容だ。英国民の不安だけが高まった会見だと思う。おカネが欲しいあまりに、我々は早くも中国化してしまったのか」と皮肉たっぷりに語ったという。こちらはまさにイギリスの一般的な見方を代表しているような気がする。
 そんな一般的な見方を証明するかのように、イギリスの報道では、習主席の公式晩餐会や金融センター・シティなどでの演説を称賛するものは見当たらないと、産経Webはなんだか得意気に言う。むしろ演説中に出席者が居眠りをしているかのような写真が掲載され、「無様な瞬間だ」「強さをひけらかした」など、辛口の論評が目立ったらしい。議会演説について、英紙フィナンシャル・タイムズは「議会制が誕生した揺りかごでみせた習氏のぶざまな瞬間」と、以下の通り紹介したらしい(産経Web)。

(引用)
 習氏は演説で「英国は最も古い議会制国家だが、中国は2000年も前から法治の重要性を語ってきた」と述べ、民主主義に関係した中国批判は受け付けないとの姿勢を暗に示した。
 同紙はこれに対し、「法の支配」の理念を生み、近代民主憲法の礎石となったマグナカルタ(大憲章)制定800年を迎え、中国で巡回展示を行う予定が急遽、当局に中止させられたことを紹介。「中国に法治と民主主義を強調する資格があるのか」「自分たちに有利な歴史だけ言及した」などと批判する議員たちの声を報じた。
(引用おわり)

 こうした批判的な見方は、実は中国側でも同様で、中国各紙が(政府意向を受けて?)「中英の蜜月関係を築いた旅」「中英の黄金時代はこれから始まる」などと成果を高く評価した一方、北京の外交関係者の間では「(原子力発電所や高速鉄道の建設協力など総額400億ポンド(約7兆4千億円)に及ぶ)多額な投資を約束するなど英国に多くの実利を与えたが、中国には見返りが少ない」といった冷ややかな声が出たり、ネットでは「ばらまき外交しかできないのか」「体面を守るためにばらまく金があるのなら国内の景気浮上に使ってほしい」「人道上の理由でアフリカなどの貧困国に投資するのなら理解できるが、先進国の英国を私たちはなぜ助けるのか、納得がいかない」といった批判の声が上がったり、と、意外に冷静な中国内の状況を報じている。また、バッキンガム宮殿で主催する公式歓迎晩餐会に招待されたことを中国メディアが「異例の手厚いもてなし」などと絶賛したのに対し、ネット上では「われわれの血税を何百億ポンド分も使ってバッキンガム食堂の食券を買った」とからかう書き込みもあったらしい。ネット空間は、日本でもそうだが、過激ながらも的を射た発言があるものだ。
 政治は、国民に不人気なことでもやらなければならないことがあるのは事実だ。キャメロン首相は、2012年、中国政府が敵視するチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と会ったことで、中国との関係が悪化するという痛い思いをして以来、中国の人権問題に関する批判を封印し実利外交に転換していると言われる。実際に、香港の雨傘革命を人権の観点から香港(ひいては中国)当局を牽制する形で援護することはなかったし、AIIBでも西側で真っ先に参加表明した。ドイツも堂々と中国をアジアで一番重要なパートナーと称している。安全保障上の脅威から距離を置いていれば、これが国際政治の現実だと割り切るべきなのだろう。あの大英帝国が、ほんまにこれでええんかいなと釈然としない思いは残るが。
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