風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

爆買いの諸相(中)

2016-03-01 00:52:02 | 時事放談
 今回はインバウンド景気に沸く日本の変容について触れてみたい。
 日本を訪れる中国人の迷惑行為には枚挙に暇がない。迷惑行為と言うより、本人たちには決して悪気はなく、単に母国にいるのと同じように振舞っているだけだと想像されるので、カルチャー・ショックに唖然とさせられるとともに、却って天晴れ(!)とも思ってしまう。大阪・ミナミのある焼き鳥店では中国人の女性客2人が近くで買ってきたたこ焼きをつつきながら、注文した焼き鳥を食べていたとか、別の焼き肉店では団体客が殻付きのカニを持ち込んで炭火の網に乗せ、肉と一緒に焼いていたなど、ビックリするような光景のほか、酒を頼まず、無料の水を何杯もおかわりする、食べかすを床にポンポン捨てるなど、「中国人客は金を使ってくれず迷惑行為も多い。正直、来てほしくない」とぼやく店主もいる。
 大人の街・銀座の変貌ぶりを嘆く声もある。かつて高度成長期に日本人がパリのシャンゼリゼ通りを闊歩し、パリジャンの眉を顰めさせたように、今「爆買い」の中国人が銀座に押し寄せ、大きな紙袋を両手にぶら下げた中国人が歩道をふさいだり、歩行者天国で傍若無人に振舞ったり、「店員と大声でやり取りする姿は日常で、観光客同士で口論が始まることも珍しくない」(百貨店関係者)ような喧騒に、日本人が眉を顰める事態になっている。銀座に、そんな「爆買い」客目当てに、ファストファッションだけでなく量販店まで出来た。
 こうして、日本人客からは、百貨店やブランド店で「爆買い」の客を優先して手厚く接客し、少額の買い物客である日本人は歯牙にもかけられないで肩身の狭い思いをするといった不満の声があがる。百貨店関係者からは「お客さまから、中国人向けの百貨店になったらいかがですか、といったクレームが後を絶たない」との溜息が漏れる。銀座の老舗の経営者は、大切にすべきは「長年のお得意様である日本人客」なのか、それとも「購買単価の高い中国人客」なのか、悩むこともあるという。店舗によっては、中国人向けと日本人向けとで接客スペースを分ける例も出て来ている。
 しかし、こうした悩みも一過性のもので、「爆買い」もそのうち落ち着くのではないか・・・というのは、ご存知「越境EC」という、ネット販売の成長著しいからだ。中国にいながらにして、インターネットを介して、海外の個人や企業と商品取引を行うことをいい、取引額は2013年3.2兆元(前年比58%増)、14年4.2兆元(同33%増)で、15年は5.5兆元(同31%増)と推移し、16年も20%以上伸びると予想されている。最近、話題のBolomeは、日本のドラッグストアなどから映像を中継して、日本と同じか多少高い程度の値段で買えるというのがウリだ。決済も銀聯カード、Alipay、Wepayなどで行うことができ、とても簡単になった。
 日本を訪れる中国人も、かつては団体旅行で観光バスで免税店に乗りつけ、短時間に大量の買い物をすることが主な目的だった時代は過ぎ去り、今は少人数の気心の知れた仲間で日本を訪れる個人旅行が増えつつあると聞く。そうした旅慣れた、言わば最先端の“通”の中国人に言わせれば、「5年前に日本に行った時と景色がまったく変わっていてびっくりした。街には中国人が溢れているし、驚くのは中国語の看板、POPが増えていること、店員さんが皆、中国語を話せること。確かに5年前とは比べ物にならないくらい便利になったけど、ちょっと日本に来ているという実感が持てないよね」ということになる。「爆買い」には飽きたらず、日本の田園風景に感心したり、何時間もかけて、場合によっては何日も前からスープを仕込む「ラーメン道」や、何十年もの間、継ぎ足し受け継がれる秘伝のタレに感動したりするなど、「もっと美味しいものを食べたい」、「もっと良い場所に泊まりたい」、「訪ねる土地ならでは新しい経験をしたい」といった、「モノ」から「コト」へと、いずれ関心が移っていくのは間違いないと思うのだ。
 受け容れる側の日本も、いくら国内消費が低迷し、インバウンド景気に期待するとはいえ、官民挙げて「爆買い」のために環境整備する過剰反応ぶりは些か目に余る。観光ビザを多少緩和するとか、銀聯カードを扱える端末を増やすのはまだしも、市中のあちらこちらでの免税対応や外国人対象の過度の割引・優遇措置や中国語対応の店員配置など、何もそこまで迎合するこたあねえだろう、見苦しいほどだと、私なんぞはつい思ってしまう。私たち日本人だって、パリのブローニュの森のレストランで、あるいはローマの街角のカフェで、日本語で対応してもらって必ずしも嬉しいわけではない。飽くまで日本らしさで感動させたいものだと思うし、心配しなくてもいずれそうなっていくものと思う。
コメント
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