安倍首相は、今月26・27両日にオバマ大統領とともに真珠湾を訪問し、旧日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊することを発表した。この手があったかと、盲点を突く手際の良さに、正直なところ驚かされた。
第二次世界大戦当時、戦争と距離を置いて冷めていた米国・世論を一気に沸騰させ、ヒトラーとの戦いへと駆り立てるきっかけとなった真珠湾攻撃が、「卑怯な騙し討ち」との批判を浴びることになったのは、最後通牒の手交が遅れた外務省(在米大使館)のミスだったとか、いやそもそも戦後の戦争では宣戦布告などなされた試しがないなど、議論はあるが、今もなお、9・11の時にも真珠湾攻撃以来の米国中枢への攻撃などと枕詞に使われるなど、米国人にとって建国以来の衝撃だったことは間違いない。昨年のオバマ大統領の広島訪問に続き、安倍首相の真珠湾訪問で、日米双方の喉元に突き刺さった棘のようなものが溶け落ちる安堵感があり、戦後71年にしてようやく日米の和解が完結する。
巷間、戦略的意味合いを探るよりも、下衆の勘繰りが喧しい。現職米大統領として初の広島訪問への返礼という日米密約があったのではないかと詮索するならまだしも、ロシアへの傾斜を薄めてバランスをとるためだとか、いや逆に日露会談の成果が見通せなくなった保険だとか、大統領就任前のトランプ氏を厚遇してオバマ大統領を切り捨てたかのような印象を払拭するためだとか、カジノ法案で妥協させた公明党との関係修復の思惑があるとか、点数を稼いでやっぱり年明けに解散・総選挙に対応できるようにしたとか、どれもそれなりに根拠がないわけではないが、私は素直にこの「歴史的な決断」を歓迎したい。
実際に米国民は概ね好意的に受け止めるだろう。とりわけオバマ大統領にとってはレガシー(政治的遺産)としての意味をもつし、オバマ大統領の広島訪問の際に「大統領は日本いる間に真珠湾の奇襲について議論したのか。多くの米国人の命が失われた」と批判したトランプ氏への牽制にもなる。また、諸外国とりわけ近隣諸国へのメッセージ性も強い。軍近代化や海洋進出で周囲への脅威を増すばかりの中国や核実験などを繰り返す北朝鮮に対して、日米の緊密な関係を示すことは当然ながら大いなる牽制になる。歴史カードを使って日本より優位に立とうとする中国や韓国に対して、また北方領土は戦争の成果と公言するロシアに対しても、かつては日本の敵だった米国との和解を示し、昨年4月の米議会・上下両院合同会議での安倍首相演説でも伝えたように、いつまでも過去に拘るのではなく未来志向の関係を迫る契機になり得る。結果として、「戦後」に終止符を打つという安倍首相自らの目標に近づき、中韓だけでなく欧米からも警戒されたリビジョニスト(歴史修正主義者)イメージ払拭に繋がる。
案の定、中国・人民日報系の環球時報は、安倍首相の真珠湾訪問は歴史への反省を示す目的ではなく、「第二次大戦を巡る日本の反省は相手国によって違う」として「米国には深く反省してみせるが、中国や東南アジアの国々に対する犯罪行為への責任からは逃れようとしている」と分析し、日米同盟の強化を狙った「政治的な判断」、「米国に取り入り、忠誠を示す狙い」などと批判的に伝えたらしいし、国営通信・新華社(英語版)も「真珠湾訪問でも日本の戦争犯罪は消すことができない」とあくまで言い張ったらしい。さらに中国外務省の報道官は、「日本側が深く反省して誠実に謝罪しようと思うのならば、南京大虐殺記念館であれ九一八事変(満州事変)記念館であれ731部隊の遺跡であれ、中国側には慰霊のために提供できる多くの場所がある」と皮肉たっぷりに牽制したらしい。
凡そ「和解」は、双方が赦しあう気持ちがあってこそ成り立ち得る概念だ。通州事件など、自らの虐殺の痕跡はそそくさと消し、南京では捏造写真まで掲示して日本の虐殺を1桁膨らましたのをもっともらしく見せつけるだけでは足らず、世界に向けて誇大広告し、国内にあっては愛国・歴史教育の一環で今もなお日帝を目の敵にしてTV映画やドラマを流し続けるような中国との「和解」は容易ではない。他国との間で歴史観が異なるのは独・仏を見るまでもないが、そもそも中国社会にあっては、歴史は自らの立場・統治を正当化するためのプロパガンダでしかない。そんな国と「和解」もへったくれもない。誰かが言ったように「信頼なき安定」を目指すしかない。
こうして見ると、オバマ大統領は、周辺にお友達がいないと言われながら、個人的には米大統領にしては「いい人」だったのだろうと思う。最初にノーベル平和賞を受賞して、その後8年間の政権運営で十字架を背負ったようなところがあって、現実とのギャップに苦労が多かったと思うが、慎重に見極めながらも広島訪問を実現したのは、やはりリベラルな彼の信念あってのことだろうし、そんなオバマ氏の心意気を感じたのだろう安倍首相も、かつて戦後レジームからの脱却を声高に主張し、靖国参拝を敢行した当時からすれば、随分、勉強して進歩したものだと褒めてあげたい気がする。
第二次世界大戦当時、戦争と距離を置いて冷めていた米国・世論を一気に沸騰させ、ヒトラーとの戦いへと駆り立てるきっかけとなった真珠湾攻撃が、「卑怯な騙し討ち」との批判を浴びることになったのは、最後通牒の手交が遅れた外務省(在米大使館)のミスだったとか、いやそもそも戦後の戦争では宣戦布告などなされた試しがないなど、議論はあるが、今もなお、9・11の時にも真珠湾攻撃以来の米国中枢への攻撃などと枕詞に使われるなど、米国人にとって建国以来の衝撃だったことは間違いない。昨年のオバマ大統領の広島訪問に続き、安倍首相の真珠湾訪問で、日米双方の喉元に突き刺さった棘のようなものが溶け落ちる安堵感があり、戦後71年にしてようやく日米の和解が完結する。
巷間、戦略的意味合いを探るよりも、下衆の勘繰りが喧しい。現職米大統領として初の広島訪問への返礼という日米密約があったのではないかと詮索するならまだしも、ロシアへの傾斜を薄めてバランスをとるためだとか、いや逆に日露会談の成果が見通せなくなった保険だとか、大統領就任前のトランプ氏を厚遇してオバマ大統領を切り捨てたかのような印象を払拭するためだとか、カジノ法案で妥協させた公明党との関係修復の思惑があるとか、点数を稼いでやっぱり年明けに解散・総選挙に対応できるようにしたとか、どれもそれなりに根拠がないわけではないが、私は素直にこの「歴史的な決断」を歓迎したい。
実際に米国民は概ね好意的に受け止めるだろう。とりわけオバマ大統領にとってはレガシー(政治的遺産)としての意味をもつし、オバマ大統領の広島訪問の際に「大統領は日本いる間に真珠湾の奇襲について議論したのか。多くの米国人の命が失われた」と批判したトランプ氏への牽制にもなる。また、諸外国とりわけ近隣諸国へのメッセージ性も強い。軍近代化や海洋進出で周囲への脅威を増すばかりの中国や核実験などを繰り返す北朝鮮に対して、日米の緊密な関係を示すことは当然ながら大いなる牽制になる。歴史カードを使って日本より優位に立とうとする中国や韓国に対して、また北方領土は戦争の成果と公言するロシアに対しても、かつては日本の敵だった米国との和解を示し、昨年4月の米議会・上下両院合同会議での安倍首相演説でも伝えたように、いつまでも過去に拘るのではなく未来志向の関係を迫る契機になり得る。結果として、「戦後」に終止符を打つという安倍首相自らの目標に近づき、中韓だけでなく欧米からも警戒されたリビジョニスト(歴史修正主義者)イメージ払拭に繋がる。
案の定、中国・人民日報系の環球時報は、安倍首相の真珠湾訪問は歴史への反省を示す目的ではなく、「第二次大戦を巡る日本の反省は相手国によって違う」として「米国には深く反省してみせるが、中国や東南アジアの国々に対する犯罪行為への責任からは逃れようとしている」と分析し、日米同盟の強化を狙った「政治的な判断」、「米国に取り入り、忠誠を示す狙い」などと批判的に伝えたらしいし、国営通信・新華社(英語版)も「真珠湾訪問でも日本の戦争犯罪は消すことができない」とあくまで言い張ったらしい。さらに中国外務省の報道官は、「日本側が深く反省して誠実に謝罪しようと思うのならば、南京大虐殺記念館であれ九一八事変(満州事変)記念館であれ731部隊の遺跡であれ、中国側には慰霊のために提供できる多くの場所がある」と皮肉たっぷりに牽制したらしい。
凡そ「和解」は、双方が赦しあう気持ちがあってこそ成り立ち得る概念だ。通州事件など、自らの虐殺の痕跡はそそくさと消し、南京では捏造写真まで掲示して日本の虐殺を1桁膨らましたのをもっともらしく見せつけるだけでは足らず、世界に向けて誇大広告し、国内にあっては愛国・歴史教育の一環で今もなお日帝を目の敵にしてTV映画やドラマを流し続けるような中国との「和解」は容易ではない。他国との間で歴史観が異なるのは独・仏を見るまでもないが、そもそも中国社会にあっては、歴史は自らの立場・統治を正当化するためのプロパガンダでしかない。そんな国と「和解」もへったくれもない。誰かが言ったように「信頼なき安定」を目指すしかない。
こうして見ると、オバマ大統領は、周辺にお友達がいないと言われながら、個人的には米大統領にしては「いい人」だったのだろうと思う。最初にノーベル平和賞を受賞して、その後8年間の政権運営で十字架を背負ったようなところがあって、現実とのギャップに苦労が多かったと思うが、慎重に見極めながらも広島訪問を実現したのは、やはりリベラルな彼の信念あってのことだろうし、そんなオバマ氏の心意気を感じたのだろう安倍首相も、かつて戦後レジームからの脱却を声高に主張し、靖国参拝を敢行した当時からすれば、随分、勉強して進歩したものだと褒めてあげたい気がする。
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