イスラエルとハマス、さらにはレバノンのヒズボラとの争いが激化してきた。イエメンのフーシ派も身構えるし、これらの胴元としてイランが控える。イスラエルにとっては3000年来の生存を賭けた戦いであり、理解できなくもないが、ウクライナ戦争とはまた一味違う相の19世紀的(あるいはそれ以前の)戦争はちょっとやり過ぎで、現実の戦争とは種々の事情によりそういうものかもしれないが、戦線拡大が憂慮される。
ところで、日本で暗躍するロシア人スパイは、今でも決してスイカやパスモは使わないそうだ。香港民主化運動の学生たちも面倒でも切符を買って移動した。交通系電子マネーでは足がつくからだ。中国で電子マネーが普及するのは、紙幣が汚くて偽造が簡単だからという実用的な理由ばかりでなく、電子化すると監視可能だという国家の意志が働いている(と思う)。そしてハマスも、イスラエルの諜報を掻い潜るためにアナログな手法に頼り、イスラエルをまんまと出し抜いた。スマホは使わずに、時代遅れのポケベルやトランシーバーを使った。
イスラエルはその上を行った(と、断定は出来ないが)。17日のポケベル一斉爆発では12人が死亡、約2300人が負傷し、翌日のトランシーバー爆発では25人が死亡、600人以上が負傷したと報道された。ポケベルは、台湾メーカーとブランド使用契約を結んだハンガリー企業が製造する過程で高性能爆薬が仕込まれたとされる。トランシーバーは、日本メーカー製と見られるが、正規品とは確認されていない。劇画のような安易なストーリーだが、実際に実現するのは容易ではない。イスラエルの諜報力があってのことだろう。
このような仕掛けは、油断した兵士(booby:まぬけ)が触れると爆発し殺傷するので、booby trapと呼ばれ、自陣営に侵攻する敵勢力に対し、撤退するに当たって、食料品や兵器など兵士にとっての必需品や貴重品など戦利品になりそうなものの残留物に仕掛けるのが通常らしい。だが、国際法(特定通常兵器使用禁止制限条約)違反で明確なテロ行為になる(山崎文明氏による)。但し、イスラエルも、中国やロシアや北朝鮮も、そしてアメリカも批准していない。毎度、安全保障上のフリーハンドを手放したがらない、協調性のない我が儘な国々だ。
中東で、イスラエルを巡る角逐はヨーロッパが埋め込んだようなところがあるが、伝統的なイスラム教の宗派を巡る争いもあり、アラブとペルシャという人種を巡る争いもあり、さらにアラブの春が挫折したように、部族社会で国民国家としてなかなか纏まることも出来ず、地域情勢は不安定である。歴史的に西と東と北と南の文明が交差する十字路と呼ばれ、繁栄と混乱を繰り返してきた。
ヨーロッパはいい。同じ宗教を信じ、陸の国境線を接して人が行き来し、王室や貴族は入り混じった。山や川や半島で分断され、巨大な権力が台頭するのが阻まれてきた(それだけにローマのような帝国を志向するカール大帝やナポレオンのような情念も生んだ)が、歴史的経験を共有し、ほぼ自由・民主主義的で資本主義を奉じる同質的な基盤がある。互いに憎しみ合うことがあっても、それは宗教的・人種的な近親憎悪のようなところがあって、米ソという超大国の冷戦構造下で埋没しないで外部の脅威に対して結束することが出来た。国際連合は、ウェストファリア体制を起源とするヨーロッパの秩序観に立つ世界組織であって、そこでは間違いなく数は力なのである。
海洋アジアは、その中間的な存在で、EUと対比されるASEANにその性格がよく表れている。EUは、イギリスがいっ時の気の迷いで離脱するほどの超国家的組織であり、加盟国は主権の一部を放棄(譲渡)しているが、ASEANはあくまでも国際組織であって、それぞれの国家は独立し、協力することはあっても互いに干渉することはない。人の流れはあるが、宗教的にも人種的にも分断され、植民地支配を受けた歴史も異なっている。
石破さんのアジア版NATO構想は、自民党の中で総スカンを喰らっているらしいが、気持ちはよく分かる。しかし残念ながら14億人を擁する中国が巨大過ぎて、束になっても太刀打ちできず、それをよく知る中国は個別交渉・逐次撃破を好み、この地を言わば分断して統治している。
人の経験はせいぜい50年で、その時々の特殊事情の影響を受ける。私たちは、冷戦という核の恐怖に晒されただけに、その終焉に伴う解放感は一種のユーフォリアを産み、グローバリゼーションが当たり前だという幻想を信じてしまった。地理的・歴史的に育まれた国家行動はそれほど変わることはないということか。
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