浜坂駅で発車を待つ大阪行き特急「はまかぜ4」号。
いまや日本で最後に残された唯一の、国鉄の名車キハ181系で定期運転される特急列車である。
←2009-2010 冬の旅 2、振り子特急とタラコ気動車と足湯と鉄子の部屋からの続きです
浜坂駅前の足湯で温まってから、駅前の大きな酒屋さんでアルコールを物色(珍しく、沖縄ビールとして有名なオリオンがあったので即購入)。
改めて改札口を通り構内に入る。
13:17、大阪からやって来た特急「はまかぜ1」号が到着する。
大阪駅を今朝09:36に発車した「はまかぜ1」号。
栄光の「列車番号 1D」を名乗り、日本国有鉄道の最高傑作車輌の一つに数えられる名車「キハ181系」を現在唯一、定期運用で使用する、
鉄道愛好家の間では名高い名列車である。
この列車は終着の浜坂駅に到着後、僅か13分で折り返し大阪行きの特急「はまかぜ4」号となり出発する。
その「はまかぜ4」号に、これから乗車して大阪へと向かうのだ。
浜坂駅に据え付けられ、折り返し発車を待つ僅かな間にプラットホーム上からキハ181系を観察してみた。
ゴツゴツと角張ったランプケースが印象的な、精悍なフロントマスク。
塗装はJR西日本仕様のものに塗り替えられているが、基本的に昭和43年の製造開始時以来そのままのデザインである。
運転室後部の巨大なルーバーが実に力強い、見事な造形美。
実際、逞しいのは外観だけでなくキハ181系の走行性能は凄まじい。水平対向12気筒、ターボチャージャー付きディーゼルエンジンの出力は1台500馬力!
この超強力なエンジンのエキゾーストノートはジェット機の爆音を彷彿とさせるとされ、俊足な特急電車にも引けを取らない最高速度120キロでキハ181系は疾走する!
これ程の性能を持つ車輌を、国鉄は今から40年以上も前に開発し実戦投入していたのだ。キハ181系が名車と語り継がれる所以である。
そろそろ発車時刻なので、車内へと乗り込む。
今回乗車するのはデッキの四ツ葉のクローバーマークも誇らしげなこの車輌、2号車に連結されたグリーン車だ。
奮発したグリーン料金は浜坂→大阪間で4千円也…
グリーン車の車内。
ずらりと並んだ座席は真っ白な枕カバーも目に鮮やかだが、登場以来40年以上も走り続けてきたキハ181系は今なお高水準にある車輌の走行性能とは裏腹に車内設備の老朽化と陳腐化の感は否めない。
特に日頃JR九州のハイグレードな特急車輌に乗り慣れた九州からの乗客の目には、いかにも旧態依然に映る。
しかし今日はその事に文句を付けるつもりなど毛頭ない。
何しろ僕は、この旧態依然さを味わう為に高額なグリーン料金を支払ったのだから!
今となっては、この古めかしい国鉄時代から変わっていない座席に座れる列車は、日本全国でもこの「はまかぜ」号くらいのものなのだ。
ちなみにこちらが、隣に連結されている普通車の座席。
割と新しいタイプのリクライニングシートに交換されており、レベル的にはグリーン車の座席と殆ど差異が無いことが分かる。
…これを見ると正直、我ながら酔狂なことに大枚叩いているな、などと思ったりもする。
ともあれ13:30、定刻に浜坂駅を発車。
この時点では車内はガラ空きで、グリーン車には僕以外にはこれまた鉄道ファンと思われる乗客が数人乗っているのみ。
そして発車後すぐに、この列車の沿線で一番の見所を通過する。
餘部鉄橋。
40メートルを超える高さで、足元まで視界を遮るものが何もないトレッスル橋から眺める冬の日本海…
これまでに幾度となく旅人の語り草となってきた、何とも恐ろしくも見事な眺めに暫し見惚れる。
しかしこの名所も現在、鉄橋の架け替え工事が進められておリ、来年には海と反対側に並行して架けられる新しいコンクリート橋が完成予定。明治45年以来、多くの旅人に親しまれた赤いトレッスル橋は解体され撤去される運命だという。
そして…ほぼ時を同じくして、いま餘部鉄橋を渡っているこの「はまかぜ」号も老朽化が進んだキハ181系から新型車輌に置き換えられる事になっている。
長きに渡って当たり前のようにそこに在り続けた山陰のふたつの鉄道風景が、間もなく姿を消そうとしている。
餘部鉄橋を渡った「はまかぜ4」号は、その性能を持て余し気味にゆったり流すといった感じで山陰本線を走っていく。
車内は静かで日差しも暖か、のんびり乗り鉄を愉しむには絶好。
だが、温泉地として名高い城崎温泉駅で大量に乗車があり、いきなりグリーン車もほぼ満席となった。
城崎温泉の行楽客が大阪に帰る需要があるのだな、などと思う。
すっかり賑やかになった車内で、ワゴンサービスのおばちゃんから
「次の豊岡駅で車内販売は降りますよ。これが最後の巡回ですよ~」と声を掛けられ、餘部鉄橋からの眺めを肴に飲み干したオリオンビールの補給に缶ビールを購入。なかなか商売上手なり。
豊岡駅で車販のおばちゃんを降ろした後、和田山駅で山陰本線から播但線に入った「はまかぜ4」号は、山間ののどかな農村地帯を軽快に駆け抜けて行く。
リズミカルな走行音と車内に響く軽やかなエンジン音、2本目のビールのせいですっかり気持ち良くなり、うつらうつらとしているうちに列車は町並みへと入って行き、16:03、姫路駅到着。
ここ姫路駅の構内で列車はスイッチバックして進行方向を変え、山陽本線へと入って行くのだが…
気が付けば車内は何と無人になっている。どうやら、グリーン車に乗っていた僕以外の乗客は全員、姫路駅で下車してしまったらしい。
おかげで遠慮なく自席の前の座席を回転させて、広々としたグリーン座席の向かい合わせ1区画を占領しての乗車となったが、貸し切りグリーン車というのは何とも寂しくて落ち着かない…
特急「はまかぜ4」号は姫路駅に3分停車後、16:06に発車。
ここからいよいよ最終区間、西日本の大動脈である山陽本線だ。複線・複々線で電化された高規格路線、最新系列の高性能電車が時速130キロ運転の新快速列車として行き交う高頻度高速走行区間だ。
姫路駅構内でのスタートダッシュの感覚が、今までの非電化ローカル区間とは違う気がする。列車の、キハ181系の走りっぷりが、明らかに違う!
「速い!これが…キハ181のちからか!」
水平対向12気筒、500馬力エンジンのパワーが解き放たれた。
キハ181系は夕陽に照らされながら時速120キロで山陽本線を駆ける!
実際、この区間では時にキハ181系特急「はまかぜ」は最高速度時速130キロで先行する新快速電車を煽ることさえあると聞く。
40年以上前の、昭和43年の高速設計理念が、今まさにその真価を思う存分発揮しているのだ。
車窓には明石海峡大橋が見る見るうちに近づいてくる。
この区間は以前、熊本発京都行きのブルートレイン「なは」号で夜明けに何度も通った事があるが、この時間帯に走るのはこれが初めてなので新鮮な感覚だ。
それに、この素晴らしいスピードはどうだ。通過駅を容赦なく加速しながら、エンジン音を豪快に轟かせて走り抜けるのだ。
しかも、僕の乗っている2号車グリーン車の乗客は僕1人、僕だけの専用車輌だ。
特急「はまかぜ4」号の編成中1輌だけ連結されたグリーン車キロ180形式に搭載された500馬力のエンジンは今や、僕だけのために咆哮し轟音をあげ、巨大な力を車軸に伝えて山陽本線を疾走しているのだ。
…これは、もはやエクスタシーである。
キハ181系の走りに酔い痴れているうちに、「はまかぜ4」号は神戸駅で東海道本線に入り、大都市区間を一路終着駅大阪を目指す。
17:11、大阪駅到着。
大阪駅にキハ181系が登場するのも、あと1年余り。
名車の貴重なシーンを記録しようと、到着した「はまかぜ4」号はすぐに鉄道ファンや親子・家族連れに取り巻かれ、盛んにカメラのシャッターを切られていた。
「はまかぜ4」号だったキハ181系が乗客を降ろし車内の灯りも消して、回送列車として宮原の車両基地に引き揚げるのを見送ってから、さぁ次の列車が待つ北陸方面系統の乗り場へと行こう。
次に乗るのは、いよいよブルートレイン!
大阪発青森行き、日本海縦貫線の夜の女王。寝台特急「日本海」号。
ここまでの鉄旅データ
走行区間:浜坂駅→大阪駅(山陰本線・播但線・山陽本線・東海道本線経由)
走行距離:232.5キロ(JR営業キロで算出)
→2009-2010 冬の旅 4、北へ。ブルートレイン「日本海」に続きます
いまや日本で最後に残された唯一の、国鉄の名車キハ181系で定期運転される特急列車である。
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浜坂駅前の足湯で温まってから、駅前の大きな酒屋さんでアルコールを物色(珍しく、沖縄ビールとして有名なオリオンがあったので即購入)。
改めて改札口を通り構内に入る。
13:17、大阪からやって来た特急「はまかぜ1」号が到着する。
大阪駅を今朝09:36に発車した「はまかぜ1」号。
栄光の「列車番号 1D」を名乗り、日本国有鉄道の最高傑作車輌の一つに数えられる名車「キハ181系」を現在唯一、定期運用で使用する、
鉄道愛好家の間では名高い名列車である。
この列車は終着の浜坂駅に到着後、僅か13分で折り返し大阪行きの特急「はまかぜ4」号となり出発する。
その「はまかぜ4」号に、これから乗車して大阪へと向かうのだ。
浜坂駅に据え付けられ、折り返し発車を待つ僅かな間にプラットホーム上からキハ181系を観察してみた。
ゴツゴツと角張ったランプケースが印象的な、精悍なフロントマスク。
塗装はJR西日本仕様のものに塗り替えられているが、基本的に昭和43年の製造開始時以来そのままのデザインである。
運転室後部の巨大なルーバーが実に力強い、見事な造形美。
実際、逞しいのは外観だけでなくキハ181系の走行性能は凄まじい。水平対向12気筒、ターボチャージャー付きディーゼルエンジンの出力は1台500馬力!
この超強力なエンジンのエキゾーストノートはジェット機の爆音を彷彿とさせるとされ、俊足な特急電車にも引けを取らない最高速度120キロでキハ181系は疾走する!
これ程の性能を持つ車輌を、国鉄は今から40年以上も前に開発し実戦投入していたのだ。キハ181系が名車と語り継がれる所以である。
そろそろ発車時刻なので、車内へと乗り込む。
今回乗車するのはデッキの四ツ葉のクローバーマークも誇らしげなこの車輌、2号車に連結されたグリーン車だ。
奮発したグリーン料金は浜坂→大阪間で4千円也…
グリーン車の車内。
ずらりと並んだ座席は真っ白な枕カバーも目に鮮やかだが、登場以来40年以上も走り続けてきたキハ181系は今なお高水準にある車輌の走行性能とは裏腹に車内設備の老朽化と陳腐化の感は否めない。
特に日頃JR九州のハイグレードな特急車輌に乗り慣れた九州からの乗客の目には、いかにも旧態依然に映る。
しかし今日はその事に文句を付けるつもりなど毛頭ない。
何しろ僕は、この旧態依然さを味わう為に高額なグリーン料金を支払ったのだから!
今となっては、この古めかしい国鉄時代から変わっていない座席に座れる列車は、日本全国でもこの「はまかぜ」号くらいのものなのだ。
ちなみにこちらが、隣に連結されている普通車の座席。
割と新しいタイプのリクライニングシートに交換されており、レベル的にはグリーン車の座席と殆ど差異が無いことが分かる。
…これを見ると正直、我ながら酔狂なことに大枚叩いているな、などと思ったりもする。
ともあれ13:30、定刻に浜坂駅を発車。
この時点では車内はガラ空きで、グリーン車には僕以外にはこれまた鉄道ファンと思われる乗客が数人乗っているのみ。
そして発車後すぐに、この列車の沿線で一番の見所を通過する。
餘部鉄橋。
40メートルを超える高さで、足元まで視界を遮るものが何もないトレッスル橋から眺める冬の日本海…
これまでに幾度となく旅人の語り草となってきた、何とも恐ろしくも見事な眺めに暫し見惚れる。
しかしこの名所も現在、鉄橋の架け替え工事が進められておリ、来年には海と反対側に並行して架けられる新しいコンクリート橋が完成予定。明治45年以来、多くの旅人に親しまれた赤いトレッスル橋は解体され撤去される運命だという。
そして…ほぼ時を同じくして、いま餘部鉄橋を渡っているこの「はまかぜ」号も老朽化が進んだキハ181系から新型車輌に置き換えられる事になっている。
長きに渡って当たり前のようにそこに在り続けた山陰のふたつの鉄道風景が、間もなく姿を消そうとしている。
餘部鉄橋を渡った「はまかぜ4」号は、その性能を持て余し気味にゆったり流すといった感じで山陰本線を走っていく。
車内は静かで日差しも暖か、のんびり乗り鉄を愉しむには絶好。
だが、温泉地として名高い城崎温泉駅で大量に乗車があり、いきなりグリーン車もほぼ満席となった。
城崎温泉の行楽客が大阪に帰る需要があるのだな、などと思う。
すっかり賑やかになった車内で、ワゴンサービスのおばちゃんから
「次の豊岡駅で車内販売は降りますよ。これが最後の巡回ですよ~」と声を掛けられ、餘部鉄橋からの眺めを肴に飲み干したオリオンビールの補給に缶ビールを購入。なかなか商売上手なり。
豊岡駅で車販のおばちゃんを降ろした後、和田山駅で山陰本線から播但線に入った「はまかぜ4」号は、山間ののどかな農村地帯を軽快に駆け抜けて行く。
リズミカルな走行音と車内に響く軽やかなエンジン音、2本目のビールのせいですっかり気持ち良くなり、うつらうつらとしているうちに列車は町並みへと入って行き、16:03、姫路駅到着。
ここ姫路駅の構内で列車はスイッチバックして進行方向を変え、山陽本線へと入って行くのだが…
気が付けば車内は何と無人になっている。どうやら、グリーン車に乗っていた僕以外の乗客は全員、姫路駅で下車してしまったらしい。
おかげで遠慮なく自席の前の座席を回転させて、広々としたグリーン座席の向かい合わせ1区画を占領しての乗車となったが、貸し切りグリーン車というのは何とも寂しくて落ち着かない…
特急「はまかぜ4」号は姫路駅に3分停車後、16:06に発車。
ここからいよいよ最終区間、西日本の大動脈である山陽本線だ。複線・複々線で電化された高規格路線、最新系列の高性能電車が時速130キロ運転の新快速列車として行き交う高頻度高速走行区間だ。
姫路駅構内でのスタートダッシュの感覚が、今までの非電化ローカル区間とは違う気がする。列車の、キハ181系の走りっぷりが、明らかに違う!
「速い!これが…キハ181のちからか!」
水平対向12気筒、500馬力エンジンのパワーが解き放たれた。
キハ181系は夕陽に照らされながら時速120キロで山陽本線を駆ける!
実際、この区間では時にキハ181系特急「はまかぜ」は最高速度時速130キロで先行する新快速電車を煽ることさえあると聞く。
40年以上前の、昭和43年の高速設計理念が、今まさにその真価を思う存分発揮しているのだ。
車窓には明石海峡大橋が見る見るうちに近づいてくる。
この区間は以前、熊本発京都行きのブルートレイン「なは」号で夜明けに何度も通った事があるが、この時間帯に走るのはこれが初めてなので新鮮な感覚だ。
それに、この素晴らしいスピードはどうだ。通過駅を容赦なく加速しながら、エンジン音を豪快に轟かせて走り抜けるのだ。
しかも、僕の乗っている2号車グリーン車の乗客は僕1人、僕だけの専用車輌だ。
特急「はまかぜ4」号の編成中1輌だけ連結されたグリーン車キロ180形式に搭載された500馬力のエンジンは今や、僕だけのために咆哮し轟音をあげ、巨大な力を車軸に伝えて山陽本線を疾走しているのだ。
…これは、もはやエクスタシーである。
キハ181系の走りに酔い痴れているうちに、「はまかぜ4」号は神戸駅で東海道本線に入り、大都市区間を一路終着駅大阪を目指す。
17:11、大阪駅到着。
大阪駅にキハ181系が登場するのも、あと1年余り。
名車の貴重なシーンを記録しようと、到着した「はまかぜ4」号はすぐに鉄道ファンや親子・家族連れに取り巻かれ、盛んにカメラのシャッターを切られていた。
「はまかぜ4」号だったキハ181系が乗客を降ろし車内の灯りも消して、回送列車として宮原の車両基地に引き揚げるのを見送ってから、さぁ次の列車が待つ北陸方面系統の乗り場へと行こう。
次に乗るのは、いよいよブルートレイン!
大阪発青森行き、日本海縦貫線の夜の女王。寝台特急「日本海」号。
ここまでの鉄旅データ
走行区間:浜坂駅→大阪駅(山陰本線・播但線・山陽本線・東海道本線経由)
走行距離:232.5キロ(JR営業キロで算出)
→2009-2010 冬の旅 4、北へ。ブルートレイン「日本海」に続きます