雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

賀茂臨時祭 ・ 望月の宴 ( 120 )

2024-09-16 08:00:47 | 望月の宴 ③

      『 賀茂臨時祭 ・ 望月の宴 ( 120 ) 』


こうして、賀茂臨時祭となった。
祭の使には、この殿の権中将(教通。道長の五男であるが、倫子の二番目の男子で、嫡男扱いに遇せられた。)がお立ちになった。
その日は宮中の御物忌みなので(宮中の物忌みが始まると、外から入ることが出来なくなる。)、殿(道長)も上達部も賀茂臨時祭の舞人の君達(公達)たちも、みな宿直として籠もられて、宮中はあちらこちらで賑やかである。
殿の上(倫子)もお出でになっていらっしゃるので、御乳母の命婦(教通の乳母)もおもしろい御遊びに加わることなく、使の君の方ばかりを見守られている。

そして、この臨時の祭の当日には、藤宰相(藤原実成。中宮権亮を兼務。)の御随身が、前に贈り物に使った筥の蓋を、この君の随身に渡して帰っていった。その筥の蓋には、銀(シロガネ)の鏡が入れてあり、沈(ジン・沈香)で作った櫛や銀の笄(コウガイ)を入れて、使の君の鬢(ビン)をお掻きになる用具としてお考えになっている。
この筥の内に泥(デイ・金銀の箔を粉末にして、膠で溶いた物。)にて葦手(アシデ・水辺の風景に、岩や水鳥などに似せた文字をあしらったもの。)を書いてあるのは、こちらからの歌に対する返しなのであろう。
 『 日陰草 かかやくほどや まがひけん ますみの鏡 曇らぬものを 』
 ( 先夜は 日陰草(日陰の蔓)が輝いていたので 相手を間違えたのでしょう 私からは 曇りのない鏡を 間違いなく使の君にお届けします )

やがて、十二月にもなったので、今年も残り少なくしみじみと感慨深い。花や蝶よと騒いでいるうちに年も暮れてしまった。

     ☆   ☆   ☆


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