雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

経営の神様 ・ 小さな小さな物語 ( 1829 )

2024-11-29 07:59:42 | 小さな小さな物語 第三十一部

『 経営の神様 AIでよみがえる 』
という見出しを見つけました。11月28日の毎日新聞朝刊の記事です。
その記事の一部を使わせていただきますと、
「パナソニックホールディングスとPHS研究所は、両社を創業した松下幸之助氏( 1894 - 1989 )を再現したAIを開発したと発表した。質問すると、幸之助氏の著作や発言のデーターを基に本人の思考を反映した回答を生成し、本人の話し方を再現した音声で答える」とあります。

「経営の神様」などと言いますと、少々オーバーな表現のようにも聞こえますが、私などには、まったく抵抗なく受け入れることが出来る表現です。
考えて見ますと、その神様が亡くなられて、はや35年が過ぎていることになります。若い方々にとっては、すでに歴史上の人物になりかけているのかもしれません。
このAIは、なお改良を続けるそうで、「経営理念の研究や社内勉強会の企画などに活用する」とされていて、残念ながら一般公開はされないようです。
ただ、松下幸之助氏に関する書物は今でも簡単に手に入りますし、ご本人の著作もかなりあります。ややもすると、合理化や効率化、あるいは他者排斥こそが経営の真髄のように言われがちな今日だけに、「経営の神様」が残された言葉を味わってみるのも、意味があるかもしれません。

これは、ずいぶん前のことですが、ある電気店の店主からお聞きした話です。
そのお方は、長年、ナショナル(パナソニックの前身の商標)の特約店(正しい呼び名ではないかもしれません。)を経営されている方でした。
ある時、幸之助氏はすでに一線から身を引かれていて、相談役だったのではないかと思うのですが、当時の松下電器産業が販売不振に陥り、業績もかなり悪化したときがありました。そこで、幸之助氏は、販売部門の先頭に立って、全国行脚をなさったことがありました。当時、ナショナル製品の販売の主流を担っていた特約店を、地域ごとに集めて、幸之助氏自身が先頭に立って販売促進の協力を依頼して回ったようです。
その店主の方も、そうした会合に参加され、その時のことを話してくれました。
幸之助氏は、松下本社の商品開発力や特約店への支援不足を、頭を下げて謝って、「何としてもナショナルを蘇らせて下さい」と訴えたそうです。
すると、数十人の店主たちからは拍手が起り、何人かは幸之助氏のもとに駆け寄り、「会長(?)、あなたに、頭を下げさせて申し訳あります。頑張ります、頑張りますとも」などと言葉をかけ、何人もの人が涙を流していたそうです。
「『いい親父たちが泣きやがって』と思いながら、気がついたら、私も涙を流していましたよ」と、その店主の方は私に話してくれながら、涙を浮かべておられたのを覚えています。

当時、私は、このお話を聞いたとき、まるで教祖と信者みたいだと感じました。
松下幸之助氏というお方の経営能力など、私などにはまったく判断出来ません。ただ、このお話を聞いて以来、松下幸之助氏を、とてつもない人間力をお持ちの方だと判断するようになりました。
これは、確か、ドラッカーの書に書かれていた言葉だと思うのですが、「経営者が必ず身につけていなければならない大事な要素が一つだけある。それは品格である」と教えています。
松下幸之助氏が「経営の神様」と称されたのには、確かに一代でわが国有数の企業に育て上げた、いわゆる経営力に優れていたのでしょうが、その基板をなすものは、人間力、あるいは品恪と言われる資質を磨き上げられていたからではないでしょうか。
これは、何も経営者に関わらず、大小に関わらず組織の上に立つ人は心すべきだと思えてなりません。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 二人の大統領 | トップ | 103万円の壁引き下げを表明 »

コメントを投稿

小さな小さな物語 第三十一部」カテゴリの最新記事