雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

衛門尉なりける者の

2014-04-18 11:00:28 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百八十七段 衛門尉なりける者の

衛門尉なりける者の、似而非(エセ)なる男親を持たりて、「人の見るに、面伏せなり」と、苦しう思ひけるが、「伊予の国よりのぼる」とて、浪に落とし入れけるを、
「人の心ばかり、あさましかりれることなし」
と、あさましがるほどに、七月十五日、「盆たてまつる」とて、いそぐを見たまひて、道命阿闍梨、
  『 わたつ海に親おし入れてこの主の
         盆する見るぞあはれなりける 』
と、よみたまひけむこそ、をかしけれ。


衛門の尉であった者が、ろくでもない父親を持っていて、「世間体も恥ずかしい」と、困った事と思っていたが、「伊予の国より上京する」という時に、波間に放り込んだのを、
「人の心ほど、醜いものだと思うものはない」
と、人々があきれ返っていると、七月十五日に、「盆の供養をする」とて、その男が準備するのを御覧になって、道命阿闍利が、
  『 わたつ海に親おし入れてこの主の 盆する見るぞあはれなりける 』
と、お詠みになったそうですが、全く同感でございます。



何とも凄まじい内容です。
「衛門尉」が何者か不明です。おそらく「右衛門尉」のことと思われますが、事実だとすれば、このような話が簡単に流布するとは思われず、病死した者を水葬にしたのが、このように伝えられたのかもしれません。
少納言さまは誰かから聞いたものなのか、当時噂になっていたことなのかもしれません。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« をはらの殿の御母上 | トップ | うちとくまじきもの »

コメントを投稿

『枕草子』 清少納言さまからの贈り物」カテゴリの最新記事