雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

吉祥天に助けられた女王 ・ 今昔物語 ( 17 - 46 )

2024-09-26 08:03:07 | 今昔物語拾い読み ・ その4

   『 吉祥天に助けられた女王 ・ 今昔物語 ( 17 - 46 ) 』


今は昔、
聖武天皇の御代に、王たちが二十三人いて、心を同じくして同盟を結び、順番に飲食(オンジキ)を準備して、宴会を行うということがあった。

ところで、そこに一人の女王がいた。この仲間に加わってはいたが、貧しいので、飲食を準備する力がなかった。
一方で、他の二十二人の王たちは順番に飲食を準備して、宴会を楽しみ、全員が当番を終ってしまった。そのため、この女王だけが未だその宴会を催しておらず、自分の貧しい身の因果を恥じ悲しんで、奈良の左京にある服部の堂(ハトリベノドウ・元興寺の一院である小塔院の吉祥堂の異称。)に詣でて、吉祥天女の像に向かって、涙ながらに申し上げた。「わたしは前世で貧窮の種を植えたため、今の世で貧しい報いを受けております。ところが、わたしたちは同盟を結び、二十三人が各々飲食を準備して、順番に宴席を設けております。わたしもその中に入っておりますが、飲食を準備するための資財はなく、ただ人の物を食べるだけで、自分にはそうした席を準備することが出来ません。何とぞ、わたしを哀れみをもって、財[ 欠字。「物をお恵み下さい」といった言葉らしい。]と。

すると、その女王には一人の幼子がいたが、その幼子が急いで走ってきて、「古宮(フルキミヤコ・普通は京都に対する奈良をさすが、ここでは飛鳥あたりか?)より、食べ物をたくさん整えて持ってきたよ」と言った。
女王はそれを聞くと、急いでそこに行ってみると、女王を養育してくれた乳母が来ていた。そして、乳母は女王に、「わたしは誰からともなく、『あなたがお客をお迎えになる』とお聞きしました。それで、食膳を整えて持ってきたのです」と言った。(このあたり欠字が多く、一部推定しました。)

女王はそれを聞いてたいへん喜んだ。持参してきた飲食は、この上がないほど美味であった。その上、あらゆる物が揃っていた。用意された食器は、すべて金属製であった。それを三十八人の使いの者に担わせて持ってきた。
女王はこれを見て喜び、王たちを招待すると、すぐに全員がやって来た。そして、用意された料理を食べたが、これまでに行われた宴に勝っていた。
王たちは皆が喜んで誉め称えて、「富める女王だ」と言って盛んに食べたので全員が満腹した。
そこで、舞い歌い、遊び戯れて、ある者は着物を脱いで女王に与え、ある者は裳を脱いで与え、ある者は銭・絹・布・綿などを与えたので、女王は喜んで受け取った。
「これも、ひとえに乳母のおかげだ」と思って、もらった衣装を捧げ持って、乳母に着せた。乳母はそれを着ると、すぐに帰っていった。

その後、女王は、かの服部の堂に詣でて「吉祥天女を拝み奉ろう」と思って、詣でてみると、あの乳母に着せてやった衣装が、天女の像にお着せしてあった。
女王はこれを見て不可解に思って、家に帰り、乳母の許に人を遣って、この事を尋ねさせたところ、乳母は飲食を送ったことなど全くないと答えた。そこで、女王は涙ながらに感激して、「あれは、天女がわたしを助けようとして、お授け下さったに違いない」と思い、ますます心を尽くして天女にお仕えした。
この後、女王は大いに富み、財産も増えて、貧窮の心配は全くなくなった。
「これは不思議なことである」として、見聞きした人は皆ほめ尊んだ、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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