読んで、観て、呑む。 ~閑古堂雑記~

宮崎の某書店に勤める閑古堂が、本と雑誌、映画やドキュメンタリー、お酒の話などを、つらつらと綴ってまいります。

『ふりまわされない。』 精神の若々しさと、80年の体験と実感に裏打ちされた、気持ちに沁みる言葉の数々

2017-03-25 10:40:17 | 本のお噂

『ふりまわされない。 小池一夫の心をラクにする100の言葉』
小池一夫著、ポプラ社、2016年


Twitterを始めてかれこれ6年近くになるわたし。『子連れ狼』をはじめとする多数の漫画原作を手がけておられる小池一夫さんのアカウント( @koikekazuo )を、Twitterを開始して間もない頃からずっとフォローさせていただいております。2010年に始めたという小池さんのTwitterアカウントのフォロワー数は現在(2016年3月下旬)、実に43万を超えております。
ほぼ毎日のように発信されている小池さんのツイートには、日々を生きる上で助けとなってくれそうな言葉が数多くあって、わたしもそれらの言葉には大いに励まされるとともに、自分を見直すための糧ともなっております。
小池さんがこれまでTwitterで発信したツイートから300の言葉を選び、テーマごとに編集して一冊にまとめたのが、本書『ふりまわされない。』です。人間関係からくる悩みや疲れ、気持ちをかき乱す負の感情、意欲の低下・・・などなど、生きていく中で生じるさまざまな問題について、率直かつ平易な言葉で語りかけたツイートの数々。Twitterで見そびれていたお言葉はもちろん、すでにTwitterで目にしたお言葉もじっくりと読み直すことができ、胸に響くものが多くありました。

わたしにとって、とりわけ胸に響いてきたのが、「感情」との向き合い方について語ったツイートでした。もともと感情に振り回されるタチだったことに加え、加齢のためなのか(苦笑)いささか猜疑心らしきものが強くなってもいる最近のわたしにとって、感情のコントロールがうまくできないことは少なからず悩ましいことでもあります。
そんなわたしに沁みてきたのが、こんな言葉でした。

イライラしたり、気持ちが荒ンでしまったときの僕の対処法がある。
負の感情に行動が引きずられるのではなく、その順序を逆にするのだ。
まず、なるべく心が楽しくなるような行動を起こして、感情を楽しいほうにひきずっていく。
これは、とても効果的です。

(註)小池さんのツイートでは「ん」を「ン」と表記します。

ついつい、「負の感情」に引きずられて切り替えができないでいることの多いわたしにとって、この言葉は大いに参考になるように思えました。やっぱり、楽しく生きようという気持ちと工夫が、感情を良いほうに持っていけるんだよなあ。
さまざまなことを受け止めようとすることで、感情のコントロールがうまくできなくなることも少なくないわたしには、この言葉も響きました。

「しらンがな」って心持ちはすごく大事だと思う。
人はあれこれ言いたがるものなのだ。
肝心な所さえおさえておけば、「そンなことしらンがなっ!」で済ませるべきことはたくさンある。
なンでもかンでもまともに反応して、自分で自分を追い込まないこと。


さまざまな物事に関心を持つこと自体は大切なことなのですが、「なンでもかンでも」一人でしょいこむ必要なんてありませんものね。「しらンがな」という気持ちで流すべきは流すというのもまた、生きる上での大切な知恵ですね。

リアルで顔の見える関係に加え、SNSなどによるネットを介した関係も生まれてきたりして、人間関係についてもいろいろ、悩まされることがあることでしょう。人付き合いがそれほど上手ではないわたしも然り、です。
そんな人間関係についても、小池さんは心に留めておきたい有益なアドバイスをツイートしています。

ああ、この人とは距離をおくべきだな、別れるべきだな、と思うのは、自分への対応が雑になったときだ。
逆に言うと、自分は絶対に人を雑に扱ってはいけないということ。
少しでも「人を雑に扱う」とは、最低なことだと、いつも心に留めておくのだ。


ほンとに単純なことなンだけど、
「やさしい気持ちでいる」と覚悟することで、
人生はずいぶンと生きやすく豊かなものになる。


気持ちに余裕がないとき、ついつい人を雑に扱ってしまうことが、わたしにもあります。「やさしい気持ち」を大事にしながら、しっかりと人と向き合わなければ、と自省する次第です。

TwitterなどのSNSなどでことさら、異なる意見や考え方を持つ人を否定したり攻撃したりする向きをよく見かけますが、これについても実に頷けるお言葉が。

他人を見下したり、攻撃的なツイートする人ってどういう人なンだろうと思って覗いてみると、共通点がある。
「自分の世界が狭い」
自分の狭い世界での意見なので、自分と同じ意見でなくては気に入らない→意見の違う人は攻撃対象だとみなす→礼節を持たない→人に相手にされず、より世界が狭くなる、という悪循環。


意見が合わないからその人は嫌いじゃなくて、
あの人が好きだから違う意見も受け入れてみるってなればいい。
意見が違う者は皆が敵、意見が合う者だけが自分の見方では自分の世界は狭まるばかり。


狭い世界に引きこもるばかりの悪循環に陥らずに、自分の世界と思考を拡げていくことで、充実した面白い人生を過ごしたいものだなあ、としみじみ思います。

何かと「生きづらさ」を感じたり、苦しみや絶望にさいなまれている人たちにも、小池さんは気持ちに沁みるようなメッセージを発しておられます。

五年前の僕の悩みは、ほとンど解決している。
三年前の苦しみは、割といいほうに向かっている。
一年前の大変なことも、どうにかなっている。
絶望は、時間の流れでどうにかなる。
「今」の絶望は、未来では絶望でなくなっていることも多い。
だから、とにかく「今」を乗り切るのだ。


ついつい過去を振り返ってため息をついたり、いたずらに未来への不安にとりつかれるのではなく、目の前にある「今」をしっかりと生きることの大切さを、この言葉は教えてくれました。
そして、寝る前に読んでおきたいのが、このお言葉。

気持ちや心って、自分でもビックリするぐらい些細なことで揺らぐでしょ?ぐらンぐらン。
でも、激しく揺れ続ける振り子もそのうち、おさまる。
ぐらンぐらンした気持ちを、安らかな寝床に持ち込まないこと。
ぐっすり眠って、明日は新しい日。


小池さんの発するお言葉には、成功した人間が大所高所からのたまう話にありがちな、ある種の臭みや嫌ったらしさがありません。その語り口は実にストレートかつ等身大で、読み手が誰であっても気持ちにスーッと沁み込むものがあるのではないでしょうか。
本書の「あとがき」によれば、小池さんがTwitterを始めたのは、モノやサービスを無料で提供し、その良さをわかってもらった上で有料で購入してもらうというビジネスモデル「フリーミアム」を知ったことがきっかけだったといいます。そして、ツイートするにあたっては、「年代によって、意味が伝わる言葉と伝わらない言葉があるので、どんな世代にも『伝わる言葉』で書くことを意識しています」とのこと。
新しい物事を自分の中に取り入れ、どんな世代にも伝わるように語りかけようという精神の若々しさと、80年の体験と実感に裏打ちされた、人生をより良く生きるための知恵。それらが渾然一体となっているからこそ、小池さんのお言葉は数多くの方々の胸に届いているのでしょう。

Twitterで日々つぶやかれるお言葉と合わせて、本書をより良い人生を歩むための糧として、座右に置いておこうと思います。