MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1157 ニッポン人の働き方

2018年09月05日 | 社会・経済


 経団連の中西宏明会長が9月3日の記者会見で、就職・採用活動に関する日程などを定めた採用指針(いわゆる「就活ルール」)を、現在の大学2年生らが対象となる2021年春入社組から廃止したい意向を示し話題となっています。

 発言の背景には、経団連の会員ではない外資系やITベンチャーはもともと指針に縛られないことに加え、世界展開している日本の巨大企業の中にも優秀な学生らを年度中途でも採用する「通年採用」が増加し、ルールが形骸化していることなどがあるとされています。

 一方、もしもこの指針が廃止されれば1953年に「就職協定」として始まった就職活動の基本ルールがなくなることから、教育活動への影響を懸念する大学などの反対も予想されるところです。

 今回の中西会長の発言を受け、「就活ルール」の廃止ついて日本経済新聞社が主要企業約90社に緊急調査を行ったところでは、「ルールが必要」との回答が過半を占める一方で、新卒の通年採用を実施済み、もしくは検討しているとする企業も約半数に及んだということです。

 一方、安倍晋三首相は同夜、自民党の集会において参加した大学生の質問に答え、経団連による就職活動ルールについて「しっかりと守っていただきたい」と述べ、維持を求めたと報じられています。

 また、菅義偉官房長官は9月4日の記者会見で、「企業側、大学側などの関係者が学生のことを十分に考えながら議論することが重要だ」と語ったとされています。

 さて、この問題の発端となる「新卒者一括採用」も「就職協定」も、もともと日本独特の雇用慣行であることはあまり知られていないかもしれません。

 その他にも、「終身雇用」や「年功序列」、「厳しい解雇規制」「定年制」「転勤」など、日本のサラリーマンが「当たり前」と感じている多くの制度が日本独特のものであることに、改めて驚かされるところです。

 それでは、このような日本独自の雇用慣行はいかにして生まれ、定着していったのか?

 こうした疑問に関し、人事コンサルタントで作家の城 繁幸氏が9月4日の経済・金融情報サイトZUU onlineに「日本人の働き方」はいつからおかしくなったのか?」と題する興味深い論考を寄せています。

 1965年からの10年間、日本の経済規模が2倍の成長を遂げた高度経済成長期に、「日本型雇用形態」即ち、新卒一括採用、年功序列、終身雇用システムは幕を開けたと城氏はこの論考に記しています。

 氏によれば、実はこの時期以前の日本は、サラリーマンも能力次第で出世もできれば解雇もされる実力本位の競争社会だったということです。

 しかし経済成長で需要が急伸するに伴い、企業は労働力の安定的確保を目指すようになった。折しも同時期「団塊世代」が社会に出て労働力も潤沢に供給されるようになり、企業は新卒を一括で採用し、年次とともに昇級させ、定年まで雇用する方式を採り始めたということです。

 法制度も、こうした「終身雇用」の流れに応じて解雇規制を強め、日本は世界一「解雇しづらい国」となって現在に至っている。そしてこの終身雇用は、「長時間労働」「転勤」という独特の労働のかたちも生み出したと氏は説明しています。

 諸外国では、人手が足りない時期やエリアがあればそれに応じて(柔軟に)人を増やしたり減らしたりするわけですが、日本では「解雇できない」終身雇用であるがゆえに簡単に人員補充ができない。

 つまり、残業・転勤という日本独自の労働形態は、実は終身雇用を守るための方策だったというのがこの論考における城氏の認識です。

 従業員の長期雇用によって技能が蓄積されハイレベルな技術力・競争力が維持できる、所属意識の高さからくる企業への忠誠心により社員のモチベーションが高い…などのメリットから(一時は)世界からも高く評価されていたこの日本型雇用制度ですが、その中で一つ見落とされていた点があったと氏は指摘しています。


 それは、人件費がどこまでも膨らむこの雇用形態を維持するには、「経済がどこまでも成長し続け行く必要があった」ということです。

 これは常識的に考えて不可能ですが、まさにモーレツ社員全盛期で働き手の労働意欲も高く、残業はもちろん徹夜も当たり前。過労死の数は現在より多かったバブル期までの時代、何故か人々はそれができる(いつまでも成長し続ける)と思っていたと氏は説明しています。

 さて、1990年代に本格化するバブル経済の崩壊から「失われた20年」を過ごしてきた現在、日本の人事制度は、向こう10年以内に必ず変わるとこの論考で城氏は見ています。

 終身雇用に守られた人材の集まりでは国際競争で太刀打ちできない。エリートの海外流出がさらに顕著になれば、まず経済界が危機感を持ち、いずれは法規制にも風穴が開くということです。

 これから先、ビジネスマンは(どこでも)「勝負できる人材」にならなくてはやっていけなくなると城氏はこの論評の最後に記しています。

 配属を会社が決めるシステムの下、日本人は「キャリアは会社が決めるもの」だと思っている。しかし、今後は自分の勝負できるスキルを見定め、自分でその職能を磨く時代だということです。

 確かに私の目から見ても、人手不足感に伴う堅調な(若い世代の)雇用環境を背景に、ここ数年で日本型雇用慣行が大きく変化する兆しが表れ始めているような気がします。

 そういう意味で言えば、まさしく今回の経団連会長の発言はその先駆けと言えるかもしれません。

 資格取得に熱心で転職にも抵抗がない若者たちは、確実に「自分」という商品を自分の人生のために使っていこうとしているように感じられます。

 それは取りも直さず、少子化の進展や人生100年時代の到来など、変わる社会環境に適応した雇用の在り方が求められていることの表れなのでしょう。



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