MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1154 「障害者雇用水増し問題」を考える

2018年09月03日 | 社会・経済


 中央省庁や地方自治体で雇用している障害者の「水増し」問題が話題となっています。

 9月1日の日経新聞によれば、対象外の職員を不適切に算入していたのは中央省庁だけでも2017年6月時点で3460人に上っているということです。

 障害者雇用促進法は、従業員50人以上の事業所に一定割合以上の障害者の雇用を義務づけています。これは「法定雇用率」と呼ばれ、例えば民間企業では2.2%、国・地方自治体・特殊法人などは2.5%、都道府県教育委員会は2.4%とされ、100人以上の企業の場合は不足する人数1人あたり月5万円を国に納めなければならないとされています。

 厚生労働省によれば、全国の企業における2017年の障害者雇用率は平均で1.97%と前年比0.05ポイント上昇して過去最高を更新していますが、当時の法定雇用率(2.0%)を満たした企業は半数にとどまっているのが現状です。

 一方、今回の指摘を受けて厚生労働省が調査したところでは、省庁など合わせて33の行政機関のうち8割にあたる27の機関で、障害者手帳を持っていないのに障害者として数えるなどしており、これらの職員を除くと、実際の雇用率は公表されていた2.49%から1.19%に下がって(当時の)法定雇用率(2.3%)を下回っていたことになるということです。

 また、朝日新聞社の調査では、全国47都道府県(教育委員会などを含む)の半数以上の28県でも、障害者手帳などの証明書類を確認していない職員を雇用率に算入していたとされます。

 こうした状況受け、菅義偉官房長官は8月28日の閣議後の記者会見において、「障害のある方の雇用や活躍の場の拡大を民間に率先して進めていく立場として、あってはならないことと重く受け止めており深くおわびを申し上げます」と述べ、陳謝したということです。

 もちろん、(大半とも言える)これだけ多くの役所で同じような取り扱いをしていたわけですから、「故意」というよりも法定雇用率の対象者を定める厚生労働省のガイドラインへの理解不足がその原因にあるのでしょうが、こうした(ある意味「いいかげん」な)実態をメディアは挙って厳しく批判しています。

 役所の姿勢を追求する当の大新聞社やテレビ局がどれだけ法定雇用率を満たしているのかは知りませんが、確かに、民間企業からは不足分一人当たり月5万円もの「罰金」を取っておいて自分たちは「知らぬ顔」では、彼らばかりでなく国民全体が怒るのも無理はない話でしょう。

 報じられる声の中には、「役所にも罰金を払わせろ」というものもあるようですが、公務員個人に負担させるような性格のものでもないし、税金で罰金(正確には「納付金」)を納付しても「行って来い」でほとんど意味がないような気がします。

 障害者を雇用できるよう公務員の「定数」自体を増やせば、とりあえず法定雇用率の問題は解決することでしょう。しかし、その分の人件費は当然歳出増に繋がり納税者の懐から出ていくわけですから、それが最良の解決策とも思えません。

 また、東大出のキャリアたちが夜を徹して働く「ブラック」な職場として知られる霞ケ関の中央官庁などで(いわゆる)「普通の」障害者が活躍できる場があるかどうかについても、もう少し精査してみる必要があるかも知れません。無理やり障害のある人を採用しても、本人や周囲が辛いだけでしょう。

 こう考えてくると、今回の国や自治体における障害者雇用率の問題には、「障害者雇用のコストを誰が負担するのか」という非常にセンシティブな問題に対する国民的な合意が求められていることが判ります。

 現在、法定雇用率を確保するため、(障害者手帳を持った)自律的に働ける障害者は様々な企業から「引っ張りだこ」で、「取り合い」の状況にあるとの話を聞くことも多くなりました。

 言い難いことですが、障害者と一口に言っても様々な人がいます。障害の程度は勿論ですが、その他にも年齢や経験、学歴や仕事への適性などを考慮する必要があるでしょうし、公務という仕事の性格から「誰でもよい」というわけにもいかないでしょう。

 業務に介助が必要であればそのための人手を割かなければいけなくなりますし、何より「われわれの税金で食わせてやっているんだ」という納税者の厳しい目に耐えられるだけの能力が求められるのも事実です。

 実際、そうした視点から「障害者枠」を設け、別枠で公務員試験を行っている自治体も多いと聞きますが、思うように採用できていないのが現実のようです。

 障害者の社会参加を進めるために、役所は率先して積極的に障害者を公務員として採用すべきだという声は十分理解できますが、この問題は私たちの生活に直接影響があることを合意のうえで、考えていく必要があるということでしょう。



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