MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2683 民主主義と一票のコスト

2024年12月10日 | 国際・政治

 12月3日夜に発生した韓国の尹錫悦大統領による「クーデター」ともいうべき戒厳令の宣言と軍隊の投入に、驚いた日本人も多かったことでしょう。「政治の停滞」を理由に戒厳令を敷くことを宣言した尹大統領。大統領の談話とともに国会が位置するソウル・汝矣ヨイド島の上空には軍用ヘリを向かわせ、280人以上の戒厳軍を投入したとのことです。

 一方、国会前では、テレビを見て駆け付けた市民や国会議員が軍人が乗ったバスを通過させないよう阻止するなど、日本人もよく知る韓国の首都ソウルの政治的な中枢で(およそ民主主義を標榜する先進国とは思えない)すさまじい光景が展開されたとされています。

 韓国では長く軍事独裁政権が続き、朝鮮戦争停戦から30年あまりを経た1987年に、ようやく民主化を勝ち取った歴史があります。その間、「戒厳令」が民主化を求める国民を力で抑えつけるためのシステムとして強く機能してきたからこそ、その再開に対する国民の拒否感と怒りは大きなものがあったのでしょう。

 いずれにしても、日本海を挟んだ隣国におけるこうした政治の大きな動きは、この日本においても「民主主義」(の大切さ)を再考させる良い機会になったような気がします。「他山の石」とはよく言ったもの。普段は当たり前のように享受している「言論の自由」や民主的な手続きの数々が、物理的な力の前には案外もろいものであることを改めて思い出す切っ掛けになればと思います。

 そこで…というわけでもないのですが、今日は10月21日の毎日新聞の記事『前回衆院選の費用は1票あたり617円 民主主義のコストは』を踏まえ、現代社会における「民主主義的な意思決定」の基礎となっている「多数決」、つまり選挙のコストについて改めておさらいしておきたいと思います。

 同記事によれば、前回2021年の衆院選には、約651億円の国費が投じられた由。投開票所の運営、候補者ポスターの掲示板設置と撤去、投票用紙や選挙公報の印刷など、準備や執行は各自治体が担い、かかった費用は選挙後に国から交付されるということです。

 一方、前市長(河村たかし氏)が衆院選に出馬したことに伴い、衆院選投開票日の27日から1カ月足らずで市長選が実施されることとなったのが愛知県の名古屋市。記事によれば、通常では市長選でも衆院選と同じ約6億円の費用がかかるということです。

 自治体の選挙はその自治体が費用を負担するが、今回は衆院選と同日選となったため、(市内363カ所の投票所の開設が一度で済むことから)それぞれ単独で選挙を実施した場合の計約12億円から9億円まで圧縮できたと記事はしています。

 若者の政治離れや投票率の低下が進む中、市の担当者は「選挙は税金で成り立っているので、多くの人に投票してもらいたい。『(投票に)行っても変わらない』ではなく、『行けば変わる』という意識を有権者に持たせる広報活動を展開していきたい」と話しているということです。

 さて、昨今の話題の中で「選挙」と言って思い出すのは、先の東京都知事選において街角の掲示板に張り出された選挙ポスターの数々のこと。選挙に関係のない水着姿の女性やペットの写真などに、「これは一体なんだ?」と首をかしげたのは私だけではないでしょう。

 さらに、政見放送では都政に関係ないパフォーマンスが横行し、床に寝転がったり、中には服を脱ぎだす女性まで現れるなど、見るに堪えない状況が続きました。政見放送は「公益のため、無料で放送する」もので、提供されたものを「そのまま放送しなければならない」ルールとはいえ、(ある意味)「民主主義の退廃」を目の当たりにするようで、何とも居心地の悪い気分にさせられたものです。

 今回の都知事選挙の予算は59億2400万円で、都選挙管理委員会が把握する1979年以降で最高額とのこと。今回選では過去最多の56人が立候補したため、「候補者一人当たりに直すと(ザックリと計算して)1億円ちょっとのコストがかかっている計算です。

 一方、毎日新聞の記事に戻れば、(かなり大雑把な数字ですが)前回衆院選の費用約651億円を全国の選挙人名簿登録者数(21年9月)の約1億551万人で割ると、諸々含め、有権者1人当たり約617円となる由。617円と言えば「およそ牛丼1杯分」の値段です。

 韓国の例を挙げるまでもなく、権力は時に暴走するもの。そうした中で、ほぼワンコイン、ランチ一回分の金額で支えている民主主義を、果たして国民は「高い」と思うのか、それとも「安い」と思うのか。

 答えはそれぞれの判断だが、私たちは投票する権利を税金で賄っていることを考えると、選挙に対する価値観と制度、その運営の意味を考えてみてみるべきだと結ばれた記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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