MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2047 本気で賃金を上げたいのなら

2021年12月22日 | 社会・経済


 12月に入り、今年も来年の春闘に向けた政労使の協議が始まったとの報道がありました。連合は、来春に向けた闘争方針として、①ベースアップ2%、定期昇給分を含め4%程度の賃金の「底上げ」を目指すこと、②企業規模や雇用形態による格差の是正、③企業内最低賃金協定などを掲げています。

 一方、政府は、新型コロナによる自粛生活に伴いいまだ閉塞感が漂う日本経済の浮揚には着実な賃上げによる消費減退抑止が急務だとして、今回も経済界に対し賃上げ継続を強く要請していく方針です。

 こうした(いわゆる)「官製春闘」の状況は第2次安倍政権の2014年春季労使交渉から続いていますが、賃上げ率自体は翌年2015年の2.38%にピークを打ったのちに低下傾向となり、今年も1.86%と低水準にとどまっています。

 一方、政府が11月下旬に開催した「新しい資本主義実現会議」で示した資料は、日本の賃金水準は主要国の中でも停滞が目立ち、過去20年間、日本企業が現預金や配当金を大きく増やす一方で、労働配分率には落ち込みが見られると指摘しています。

 岸田首相は同会議において、「業績がコロナ前の水準を回復した企業」との前提をつけつつ、「新しい資本主義の起動にふさわしい3%を超える賃上げを期待する」と述べたと報じられています。

 実際、OECDの統計(Average annual wages)によれば、主要13カ国の1994年から2018年にかけての名目賃金上昇率は、米・英・韓国などが100%を上回る(つまり「倍増」する)中で、日本だけがマイナス4.54%とマイナス成長となっているということです。

 四半世紀といえば随分昔のことのようにも思えますが、世界の中で日本だけが名目賃金が減っているというのも解せない話。なぜ日本の賃金は、こんなにも上がらなかったのか。

 もちろん、企業自体に利益が上がらなければ賃金には反映されません。そう考えれば「失われた」と呼ばれるバブル以降の20年間は、確かに日本企業にとって試練の時代が続いてきたといえるでしょう。

 その間、日本企業は、製造業からサービス業への産業構造の変化や企業活動のグローバル化、中国などの第三国の台頭や金融と国際為替の大きな変動などにさらされ、高度成長下で培った競争力をそがれてきました。

 さらに、年功賃金の修正など、高賃金部分を削減する賃金体系の変化や、労働組合の弱体化による被用者の交渉力低下などを、賃金低迷の理由に挙げる向きも多いようです。

 生産年齢人口の急激な現象と、それを補うように増え続けている高齢者と女性の就労割合などは、中でも特に影響の大きい要素と言えるかもしれません。

 団塊の世代の高齢化が正規雇用者の大量退出をもたらす一方で、年金支給年齢の引き上げに伴う定年退職者の再雇用の増加や、福祉・医療を中心としたサービス部門の労働需要のひっ迫などもあり、日本の労働市場はこの20年で大きく様変わりしています。

 1997年以降、アベノミクスも含めて今日に至るまで、(時給の安い)非正規社員の占める割合は年々拡大し、2020年の非正規雇用は10年前の2.5倍に達しています。

 2018年の「労働力調査」によると、役員をのぞく全雇用者数5596万人のうち、正規職員・従業員が3476万人に対して、非正規職員・従業員は2120万人。非正規で働く人は、すでに雇用者全体の約37%、4割に迫る勢いです。

 しかも、正規・非正規の採用・就労形態によって、収入の格差は歴然としています。「同一労働・同一賃金」を制度的に保証するとされた昨今でも、フルタイムで働いている非正規の平均賃金は正社員の65%にとどまっているのが現状です。

 同じように働いても、非正規というだけで正社員の賃金の7割にも満たないうえ、ボーナスや様々な手当てなども期待できない。しかも、正社員では多くの場合、年齢とともに賃金が上がっていくのに対して非正規ではほとんど上がらないなど、勤務の状況と賃金とのバランスを欠いている状況が、ここにきて大きく是正されたとの話は聞こえてきません。

 春闘で争われるのは、(基本的)労働組合を組織するに正規職員の雇用条件に関するもので、賃金などに関する交渉機会を持たない非正規雇用者は、「蚊帳の外」に置かれている場合も多いようです。

 そうした状況を踏まえれば、もしも政府が本気で賃金上昇(やそれにともなう消費の拡大)を目指すのであれば、まずは(最低賃金の大幅アップも含め)非正規雇用者の待遇改善を担保するための制度を整える必要があると感じるのですが、果たしていかがでしょうか。


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