米国における共和党トランプ前大統領の再登板は、今後の米中関係にどのような影響を与えるのか?…まず最大の懸念材料は、トランプ次期大統領が対中関税の大幅な引き上げを公約に掲げていることでしょう。
現在、経済の低迷や国内不安の増大が指摘されている中国共産党習近平政権にとって、これが実施されれば更なるダメージとしてボディブローのように響きかねません。よって、現時点からヨーロッパや日本、韓国などの周辺国との新たな関係性(関係改善)を模索する動きが(既に)始まっていると指摘する向きもあるようです。
また、国際安全保障の面で懸念される台湾問題についても、選挙期間中「台湾は防衛費を支払うべきだ」と発言したと伝えられるトランプ氏のこと、次期政権が「台湾を防衛する」と明言していたバイデン政権の方針から大きく舵を切る可能性も考えられます。
こうしたトランプ新政権の新たな動きが中国を利する結果を生むかどうかは別にしても、「米国一国主義」のトランプ氏が新たな大統領になることで、(中国ばかりでなく関係各国も)様々な形で方針変更を余儀なくされることはおそらく間違いないでしょう。
こうして、(「トランプ」という名の)米国発の不安定要素が拡大する中、中国の対外戦略はどのような変化を見せていくのか。11月19日のビジネス情報サイト「現代ビジネス」に、インド管理大学ラクナウノイダ公共政策センターフェローの中川コージ氏が『中国が想定する「最悪のシナリオ」、国連を中心とする国際秩序が「崩壊」する日』と題する論考を寄せているので、参考までにその指摘の一部を残しておきたいと思います。
中国がアメリカを凌駕する国になることを目指していることをもって、「既存の国際秩序に挑戦する」と解説されることがあるが、これは大きな間違いというもの。どちらかと言えば、「既存の国際秩序を守り、利用しつくして、その支配の確立に挑戦する」と言った方が適切だと、中川氏はこの論考の冒頭に綴っています。
台湾から国連での代表権を奪った1971年以降半、中国は国連を舞台に大きな外交利益を得てきた。国連(憲章)のもと、唯一の中国代表であることを喧伝し、「1つの中国」原則というロジックで、多くの国家に対し二カ国間で唯一性を承認させていると氏は話しています。
チベット、ウイグル、モンゴルを含む中国の現在の国境線が認められ、国際社会からの批判を「内政干渉だ」と突っぱねられるのも、内政不干渉を是とする国連中心の国際秩序があればこそ。もしも、ウクライナ紛争やイスラエル・パレスチナ間の衝突などによって国連の枠組みが揺らげば、中国は半世紀にわたって投資してきた(その)貴重な「外交資産」を失いかねないということです。
だからこそ、地域紛争が国際秩序に影響を与えることを防ごうと動くのが中国の第一原則だと、この論考で氏は指摘しています。宇露戦争に関しては中立化戦略を取り、イスラエル・ハマス間の紛争に関しても「二国家解決」を前提に、「知らんがな」のスタンスを決め込んでいる。中国メディアの中には、「欧米はウイグルを批判するが、ガザに暮らす人々よりはマシだ」などと書く媒体もあったが、こうした攻撃も、国連という現在の国際秩序が存在する中でこそ生きるものだというのが氏の認識です。
北京中央は、中華人民共和国建国百周年にあたる2049年までに米国を凌駕する野心を持っている。そして、それがゆえに2040年代までは、米国に対して「戦いません、勝つまでは」戦略を継続するだろうと氏は考えています。
中国は、米中の成長スピードが相対的に中国に有利に推移することを確信し、産業と経済の力で世界覇権を「実質的に」握れると判断している。そうしたシナリオを前提とすれば、日本にとっても関心が高い「中国は台湾をどうしたいのか」についても、自然に想定が見えて来るというのが氏の指摘するところです。
おそらく、北京中央は、中華人民共和国の国力が圧倒的に米国を凌駕した時点で、台湾執政に関与する流れを想定していると氏は見ています。そしてその場合(少なくともそれまでは)国連という組織と、国連中心の国際秩序が続くことが欠かせません。
そのため、国連での中国の影響力に疑問符が付くような行動は厳に慎むはず。過激なアクションを起こさないのは、待てば待つほど、北京は台湾の執政への関与に軍事力を用いることなく、低コストで近づけると考えているからだということです。
一方、もう一つのシナリオは、国際秩序が国連中心からG7を中心とした新秩序にシフトすることだと氏は話しています。その場合、台湾の国際的な位置づけが抜本的に変更され、台湾の独立が仮に議論に挙がる可能性もある。そうなれば、北京中央は平和裏に両岸問題を解決するという選択肢を失うことにもなりかねず、解決に要する内政コスト、軍事コストが大きく増すことから、(これは)北京中央が最も嫌い、警戒する事態だということです。
台湾執政に関与できる見込みが薄れると、中華人民共和国の憲法にも記される台湾統治への安定的道筋が崩れ、末端党員や大衆人民に党中央の無謬性(「党中央に失敗はない!」)を証明できなくなる。普通選挙がないからこそ、無謬性の崩壊は体制の正統性にイエローカードを突きつけ、統治根拠を根幹から揺るがすことになると氏は指摘しています。
そして、これが中国共産党(北京中央)が最も避けたい事態であることは間違いない。北京中央が、統治の正統性と無謬性の低下を回避すべく軍事侵攻を画策する蓋然性も(ぐっと)高まると氏は言います。世界と日本は、現在の「戦狼外交」の比ではない。中国の圧倒的な粗暴化に直面し、(否が応でも)台湾有事のエスカレーションへの対処を強いられるということです。
さて、日本がこのハードなシナリオを望むことは、(選択肢としては「あり」かもしれないが)新国際秩序には莫大な立ち上げコストがかかり、軍事的にもあまりにリスキーなもの。従って、日本がこの道に突き進む決断を実際に行う必要は(少なくとも)今はないと氏はこの論考の最後に記しています。
しかし、政治的な選択肢としてこうしたハードなシナリオが存在していることも意識するに越したことはない。そしてそれ自体が、中国を牽制するカードになり、そういった意味でこうした戦略も「あり」なのだと話す氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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