誰にもみとられず(1人暮らしの)自宅で亡くなった10代から30代の若者が、平成30年~令和2年の3年間に東京23区で計742人確認されたと7月21日の産経新聞が報じています。(「広がる若者の孤独死」2024.7.21)
記事によれば、令和2年までの3年間に監察医務院が取り扱った10~30代の1人暮らしの異状死(←自殺や死因不詳など)者は計1145人。このうち職場や路上などを除く、自宅で死亡した(いわゆる)「孤独死」は64.8%(742人)で、うち約4割(305人)が死亡から発見までに4日以上を要していたということです。
因みに、死亡から発見に至る日数については、「8~30日」が114人、「31日超」も64人おり、たとえ若者であっても長期間発見されないなど、都会に暮らす人々の孤立が深刻化している実態が改めて明らかになったとされています。
若者の孤独死増の背景には、社会との接点や関係を断ち生活の能力や意欲を失って「セルフネグレクト(自己放任)」に陥っている若者の存在が指摘されることころ。最近では若者の「風呂キャンセル化」が話題になったりしていますが、ゴミや排泄物の放置など、認知力や判断能力、意思決定能力が低下しているケースなども指摘されているようです。
亡くなってから1か月以上も自宅で放置されている若者たち。都会暮らしの一体何が、このような深刻な孤立化を助長しているのでしょうか。7月26日の総合情報サイト「PRESIDENT ONLINE」に、独身問題に詳しいコラムニストの荒川和久氏が『政府が知らない「中年独身男性が孤立を深める本当の要因」』と題する論考を寄せているので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。
警察庁の発表によれば、全国で今年の1月~3月に自宅で(1人で)亡くなった一人暮らし者の総数は2万1716人。単純に換算すると、この日本では年間で実に8万6864人が孤独死・孤立死する推計になると、荒川氏はこの論考に記しています。
「結婚しないでいると孤独死するぞ」などとよく言われるが、実際に孤独死している人のうち、年齢別でもっとも数が多いのは75歳以上。2024年時点でその年齢であればほぼ結婚していた皆婚時代の世代なので、決して「結婚したから孤独死しない」とは言えないと氏は話しています。
とはいえ、残念ながら死とは誰の身にもいつかは訪れるもの。ことさら孤独死や孤立死を悲惨なものとしてとらえる必要はないが、ただ、何カ月も発見されずに放置されたりしない仕組みや体制は(社会として)築いておく必要がある。そして個人としては、一人で死ぬことを怖れるよりも、いずれ確実にやってくる「一人で生きる状態になった時にどう生きるか」を事前に考えていくことの方が重要ではないかというのが、この論考で氏の指摘するところです。
「一人で生きる」ということに関しては、昨今、何かとその孤独感を問題視する傾向が強まっている。「孤独で早期死亡リスクが50%上昇する」「孤独のリスクは一日タバコ15本吸うことに匹敵する」「孤独は肥満の2倍健康に悪い」などという研究結果もあって、2021年には政府に孤独担当大臣も設置されたと氏は話しています。
しかし、こうして孤独を悪者に仕立てたところで、それで何かが解決するかと言えば、なかなかそうもいかない。そもそも「孤独を感じる」こと自体が悪いことなのか? もっといえば、「孤独を感じる」ことと「孤独を苦痛と感じること」とは別物だというのが氏の見解です。
大事なのは、孤独を一括りですべて悪とするのではなく、「必要な孤独」と「苦しい孤独」とを分けて考え、特に「孤独を苦痛と感じる根本は何か」を正確に把握していくこと。内閣官房孤独担当室による過去3回の実態調査の結果から見えてくるのは、孤独の本性は、決して「家族がいない・友達がいない・頼れる人がいない」という人のつながりの問題(だけ)ではないということです。
例えば、2023年実施の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」によれば、孤独を「常に感じる」「時々感じる」という人の割合に男女差はほぼ認められない。年代別では、(実は)高齢者よりも現役世代のほうが高く、夫婦や家族よりも単身世帯のほうが孤独感は高いと氏はしています。
一方、注目すべきは、性年代別配偶関係別などの属性や外出・会う頻度の差よりも、経済的ゆとりの有無のほうがよっぽど孤独感に大きな影響を及ぼしているということ。さらに詳細に、男女年代別の経済的ゆとりの「あり+ややあり」「普通」「苦しい+とても苦しい」で3分類した孤独感などを見ると、明らかに経済的ゆとりのなさが孤独感に直結していることがわかるということです。
さらに、孤独感に影響を与えた人生のイベンを見ていくと、「一人暮らし」など人との同居環境による変化が孤独感にほとんど影響を及ぼしてはいない一方で、男女ともにもっとも高いのが「生活困窮・貧困」だと氏は指摘しています。
政治の世界では、「家族や友達など話し相手がいない」とか「コミュニケーションする相手がいない」ことだけが(感覚的に)孤独感の元凶のように語られていたが、実態調査から浮かび上がってきたのは、「孤独とは経済問題なのだ」という発見だということ。要するに、「足りないのは、家族や友達や会話ではなくお金だった」というのが氏の見解です。
改めて言えば、孤独解決のためには「お友達を作りましょう」「趣味仲間を作りましょう」「誰かと同居しましょう」などと言われてきたが、解決の道は(実は)そこにはない可能性があるということ。経済的な欠落感がなくなれば、孤独感は解消されるかもしれないという新たな解決策も見えてくると氏は提案しています。
「孤独だと健康を害する」という理屈も、元をただせば、お金がないことによって満足な食事や栄養がとれなかったり、お金がないことにより外出する機会や意欲も失ったり、お金がないことでそもそも医者に行くこともできなかったり…という因果があっての話。「貧すれば鈍する」といわれるように、「金がない」という環境は人間のあらゆる行動を委縮させ、「面倒くさい」「どうだっていい」といった状態に陥って、精神的にも病んでいくということです。
今後、この日本で独身人口や単身世帯が増えることは既に不可避な状況と言える。そうした中、孤独・孤立対策を検討するのであれば、彼らの健康をむしばんでいるのはタバコやアルコールや肥満よりも「金がない」ことであり、上がり続けている国民負担率のほうではないかと氏は話しています。
「衣食足りて礼節を知る」とはよく聞く言葉。まずは、人としての尊厳を保てるだけの生活を保障することが、最大の対策ということでしょうか。
深刻な孤独とは、人の心が生み出すブラックホールのようなもの。人口ボリューム層である中間層の経済環境の改善がなければ、結果としての孤独死・孤立死による死亡が、ますます増えていくのではないかと話す荒川氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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