ちょうど、“ペルセウス座流星群”観察のタイミングですが、
今回は、“ペルセウス座流星群(8月)”や“しぶんぎ座流星群(1月)”と共に三大流星群と呼ばれている“ふたご座流星群(12月)”のはなしです。
チリを放出して流星群の原因を作っている天体を母天体といい、この母天体の軌道と地球の軌道が交差していると流星群が出現することになります。
そう、地球が母天体の通り道を毎年同じ時期に通過する際に、通り道に残されたチリが地球の大気に飛び込んでくるんですねー
チリは上空100キロ前後で発光、これが流星群です。
ただ、“ふたご座流星群”の場合は、母天体が彗星ではなく“フェートン”という小惑星…
彗星のように表面活動の活発な天体は、その公転軌道上に大量のチリを放出します。
では、小惑星の“フェートン”からは、どのようにして流星群の元になるチリが放出されているのでしょうか?
“はやぶさ2”が探査した小惑星“リュウグウ”やNASAの“オシリス・レックス”が探査した“ベンヌ”と同じ“C型小惑星”と呼ばれる炭素質の小惑星です。
今回発表されたのは、この“フェートン”からのチリの放出が、天体衝突のような激しいプロセスによって生じたとする研究。
研究にはNASAの太陽探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”の観測データが用いられています。
毎年決まって同じ時期に観測される流星群は、流星の元になるチリの分布が関係していると考えられています。
彗星のように表面活動の活発な天体は、その公転軌道上に大量のチリを放出します。
このような天体の公転軌道が地球の公転軌道と交差していると、地球は毎年同じ時期に交差点を通過することになるので、毎年同じ時期に流星群が観測されるわけです。
でも、母天体が彗星だと推定されている他の流星群とは異なり、小惑星である“フェートン”が母天体だと推定されている点で、“ふたご座流星群”は非常に珍しい存在と言えます。
そのため、“フェートン”はもともと彗星で、氷などの揮発性物質が枯渇した天体なのではないか、とする説もあったんですねー
でも、近年の観測結果では、“フェートン”がごく普通の小惑星で、太陽に極めて接近するために彗星のような活動を示しているに過ぎない、という認識でほぼ一致していました。
尾の主成分は高温の環境下でなければ蒸発しにくいナトリウムであり、揮発性物質やチリは含まれていないことも判明しています。
このような性質を持っているので、“フェートン”からどのようにして流星群の元になるチリが放出されているのか、という謎は深まるばかりでした。
“フェートン”は、太陽に極めて接近したとき以外はごく普通の小惑星のように振る舞っています。
なので、何か特異な現象が起きているとすれば、太陽に接近した時に限られるはずです。
でも、太陽に接近した時の“フェートン”を観測するには、太陽が明るすぎるのでこれまで困難でした。
そこで、今回の研究では、“フェートン”からのチリの放出をシミュレートし、それを“パーカー・ソーラー・プローブ”の観測結果と比較することで、“フェートン”がどのようにして“ふたご座流星群”の母天体になったのかを調べています。
研究チームが検討したシミュレーションは3つ。
これにより2000年間にわたるチリの動きと広がり方を検証しています。
1.標準的な放出
“フェートン”から低速度でチリが放出されることを想定しています。
“フェートン”は太陽の放射によって極度に乾燥してひび割れています。
さらに、放射圧の非対称さによって起こり得るのが、自転が一時的に加速する現象“YORP効果”。
この2つの要因が重なると、表面からゆっくりとチリが放出されると考えられます。
2.激しい放出
“フェートン”に小さな天体が衝突し、その衝撃でチリが放出されることを想定しています。
衝突の速度は秒速1キロ程度で、標準的な放出と比べて放出されたチリの速度は速く、瞬間的なプロセスによる現象を特徴とします。
3.普通の彗星活動による放出
“フェートン”が普通の彗星と同じような活動をしていることを想定しています。
このシミュレーションは、比較のために検討されたもの。
数々の観測結果に反する仮定なので、研究チームもこのプロセスが働いている可能性は低いと考えています。
観測に用いられたのは、“パーカー・ソーラー・プローブ”の磁場観測装置“FIELDS”のデータ。
複数のアンテナや磁力計で構成されている“FIELDS”は、電場や磁場、太陽コロナを通過する衝撃波の測定を行うための装置ですが、チリ検出器として利用することもできました。
アンテナにチリが衝突することで生じる電位変化の値を読み取り、そこからチリの密度を算出しています。
研究の結果、観測データと最も一致したシミュレーションは、“フェートン”に小さな天体が衝突し激しくチリが放出されたと想定したもの。
この想定は、今回の“パーカー・ソーラー・プローブ”の観測データだけでなく、過去の観測結果とも一致するものでした。
ただ、シミュレーションの結果は完全ではありません。
今回の研究で示されたモデルでは、地球が“フェートン”のチリと交差するタイミング、つまり“ふたご座流星群”が出現する時期を予測することはできませんでした。
このことが意味しているのは、シミュレーションが完全でないこと…
どこが誤っているのかが明らかになるのは、今後の研究次第になってしまいます。
なお、JAXAが2024年に打ち上げを計画している深宇宙探査機“DESTINY+”は、“フェートン”のフライバイ観測を目的の1つとしているミッションです。
でも、“パーカー・ソーラー・プローブ”のような間接的な検出は可能だと見込まれていて、フライバイ観測によって得られる情報は他にもあります。
“フェートン”の深まる謎は、そう遠くないうちに“DESTINY+”が明らかにしてくれるはずですね。
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今回は、“ペルセウス座流星群(8月)”や“しぶんぎ座流星群(1月)”と共に三大流星群と呼ばれている“ふたご座流星群(12月)”のはなしです。
チリを放出して流星群の原因を作っている天体を母天体といい、この母天体の軌道と地球の軌道が交差していると流星群が出現することになります。
そう、地球が母天体の通り道を毎年同じ時期に通過する際に、通り道に残されたチリが地球の大気に飛び込んでくるんですねー
チリは上空100キロ前後で発光、これが流星群です。
ただ、“ふたご座流星群”の場合は、母天体が彗星ではなく“フェートン”という小惑星…
彗星のように表面活動の活発な天体は、その公転軌道上に大量のチリを放出します。
では、小惑星の“フェートン”からは、どのようにして流星群の元になるチリが放出されているのでしょうか?
図1.小惑星“フェートン”のイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech/IPAC) |
小惑星を母天体に持つ珍しい流星群
流星群の母天体の多くは彗星なんですが、“ふたご座流星群”の場合は約1.4年周期で太陽系を巡っている3200番小惑星“フェートン”。“はやぶさ2”が探査した小惑星“リュウグウ”やNASAの“オシリス・レックス”が探査した“ベンヌ”と同じ“C型小惑星”と呼ばれる炭素質の小惑星です。
今回発表されたのは、この“フェートン”からのチリの放出が、天体衝突のような激しいプロセスによって生じたとする研究。
研究にはNASAの太陽探査機“パーカー・ソーラー・プローブ”の観測データが用いられています。
この研究は、プリンストン大学のW. Z. CukierさんとJ. R. Szalayさんのチームが進めています。
この研究成果が正しければ、“ふたご座流星群”は天文学的なスケールでは、ごく一時的な現象になってしまいます。毎年決まって同じ時期に観測される流星群は、流星の元になるチリの分布が関係していると考えられています。
彗星のように表面活動の活発な天体は、その公転軌道上に大量のチリを放出します。
このような天体の公転軌道が地球の公転軌道と交差していると、地球は毎年同じ時期に交差点を通過することになるので、毎年同じ時期に流星群が観測されるわけです。
でも、母天体が彗星だと推定されている他の流星群とは異なり、小惑星である“フェートン”が母天体だと推定されている点で、“ふたご座流星群”は非常に珍しい存在と言えます。
どのようにして流星群の元になるチリが放出されているのか
確かに、太陽に極めて接近する“フェートン”の軌道は小惑星というよりも彗星のようで、わずかながら尾を形成するような活動も観測されていました。そのため、“フェートン”はもともと彗星で、氷などの揮発性物質が枯渇した天体なのではないか、とする説もあったんですねー
でも、近年の観測結果では、“フェートン”がごく普通の小惑星で、太陽に極めて接近するために彗星のような活動を示しているに過ぎない、という認識でほぼ一致していました。
尾の主成分は高温の環境下でなければ蒸発しにくいナトリウムであり、揮発性物質やチリは含まれていないことも判明しています。
このような性質を持っているので、“フェートン”からどのようにして流星群の元になるチリが放出されているのか、という謎は深まるばかりでした。
“フェートン”は、太陽に極めて接近したとき以外はごく普通の小惑星のように振る舞っています。
なので、何か特異な現象が起きているとすれば、太陽に接近した時に限られるはずです。
でも、太陽に接近した時の“フェートン”を観測するには、太陽が明るすぎるのでこれまで困難でした。
図2.“パーカー・ソーラー・プローブ”は太陽探査機で、チリを直接観測するための観測装置は搭載されていない。でも、工夫することで間接的に“フェートン”のチリをとらえることに成功した。(Credit: NASA / Johns Hopkins APL / Steve Gribben) |
研究チームが検討したシミュレーションは3つ。
これにより2000年間にわたるチリの動きと広がり方を検証しています。
1.標準的な放出
“フェートン”から低速度でチリが放出されることを想定しています。
“フェートン”は太陽の放射によって極度に乾燥してひび割れています。
さらに、放射圧の非対称さによって起こり得るのが、自転が一時的に加速する現象“YORP効果”。
この2つの要因が重なると、表面からゆっくりとチリが放出されると考えられます。
2.激しい放出
“フェートン”に小さな天体が衝突し、その衝撃でチリが放出されることを想定しています。
衝突の速度は秒速1キロ程度で、標準的な放出と比べて放出されたチリの速度は速く、瞬間的なプロセスによる現象を特徴とします。
3.普通の彗星活動による放出
“フェートン”が普通の彗星と同じような活動をしていることを想定しています。
このシミュレーションは、比較のために検討されたもの。
数々の観測結果に反する仮定なので、研究チームもこのプロセスが働いている可能性は低いと考えています。
観測に用いられたのは、“パーカー・ソーラー・プローブ”の磁場観測装置“FIELDS”のデータ。
複数のアンテナや磁力計で構成されている“FIELDS”は、電場や磁場、太陽コロナを通過する衝撃波の測定を行うための装置ですが、チリ検出器として利用することもできました。
アンテナにチリが衝突することで生じる電位変化の値を読み取り、そこからチリの密度を算出しています。
図3.左から“標準的な放出”、“激しい放出”、“普通の彗星活動による放出”のシミュレーション結果。チリの空間的な広がり方から、最も実態と一致するのは“激しい放出”だと判明した。(Credit: Cukier & Szalay) |
この想定は、今回の“パーカー・ソーラー・プローブ”の観測データだけでなく、過去の観測結果とも一致するものでした。
ただ、シミュレーションの結果は完全ではありません。
今回の研究で示されたモデルでは、地球が“フェートン”のチリと交差するタイミング、つまり“ふたご座流星群”が出現する時期を予測することはできませんでした。
このことが意味しているのは、シミュレーションが完全でないこと…
どこが誤っているのかが明らかになるのは、今後の研究次第になってしまいます。
なお、JAXAが2024年に打ち上げを計画している深宇宙探査機“DESTINY+”は、“フェートン”のフライバイ観測を目的の1つとしているミッションです。
“DESTINY+”は、惑星間航行中にダスト(個体微粒子)の組成をその場で分析し、3200番小惑星“フェートン(Phaethon)”のフライバイ探査を行う計画。これまでの深宇宙探査機が、ロケットで惑星間空間に一気に投入されるのに対し、“DESTINY+”では小型のイプシロンロケットで地球周回の長楕円軌道に投入され、1~2年かけて燃料消費のけた違いに少ないイオンエンジンで高度上昇し、月スイングバイで加速して惑星間空間へ出発する。これは将来の低コスト・高頻度で持続的な深宇宙探査を実施可能にするための技術実証になる。
フライバイ探査対象の“フェートン”は“ふたご座流星群”の母天体で、活動的でC型(炭素質)小惑星、最大級(5.8キロ)の地球衝突可能性天体になる。搭載される3つの科学観測機器の開発や理学全体の取りまとめを千葉工業大学が担当し、多くの組織の研究者が参加している。
“DESTINY+”は、宇宙空間を漂うチリを観測する装置を搭載していますが、今回の研究結果を考慮すれば、“フェートン”のチリの直接観測は難しいかもしれません。フライバイ探査対象の“フェートン”は“ふたご座流星群”の母天体で、活動的でC型(炭素質)小惑星、最大級(5.8キロ)の地球衝突可能性天体になる。搭載される3つの科学観測機器の開発や理学全体の取りまとめを千葉工業大学が担当し、多くの組織の研究者が参加している。
でも、“パーカー・ソーラー・プローブ”のような間接的な検出は可能だと見込まれていて、フライバイ観測によって得られる情報は他にもあります。
“フェートン”の深まる謎は、そう遠くないうちに“DESTINY+”が明らかにしてくれるはずですね。
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