太陽系で2番目に遠い軌道を約84年の周期で公転している惑星が天王星です。
天王星は、太陽系の惑星の中では木星、土星に次いで3番目に大きく、木星、土星、海王星に次いで4番目に重い天体。
ガス惑星と呼ばれる木星や土星、海王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っていて、惑星の分類としては木星、土星、海王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類されています。
今回の研究で指摘しているのは、天王星の4つの氷衛星“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”の地下に海がある可能性です。
土星の衛星エンケラドスをはじめ、木星の衛星エウロパや海王星の衛星トリトンなどでも、潮汐加熱によって氷衛星の内部に広大な海が存在する可能性が指摘されています。
これらの衛星は外殻から間欠泉“プルーム”が噴出するなど活動が盛んで、衛星の表面は地質学的に短いタイムスケールで更新されていると考えられています。
ただ、過去の研究で明らかになっていたのは、天王星の4つの衛星には潮汐力がほとんど働かないこと…
それでは、地下海が維持されているとしたら何が内部を温めているのでしょうか?
どうやら、放射性物質の崩壊による加熱や不凍剤の役割を果たすアンモニア、断熱性のある多孔質の岩石が関わっているようです。
なかでもサイズが大きな“ミランダ”、“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”は、天王星の5大衛星として知られているんですねー
これらの衛星は氷を主成分とすることから氷衛星と呼ばれていて、条件次第では地下に液体の水が豊富な層、すなわち地下海が存在する可能性があります。
特に大きいチタニアとオベロンについては、海水に不凍剤(0℃を下回る温度でも水の凍結を防ぐ物質)の役割を果たすアンモニアが融け込んでいれば、現在も地下海が維持されているのではないかとする予測もありました。
さらに、ごく最近の火山活動の痕跡と思われるデータが得られたアリエルは興味深い観測対象といえます。
でも、近年になって分かってきたのは、そのような海水は物質として不安定であり、少なくとも不凍剤の存在だけでは地下海を維持できないことでした。
一方で、近年の惑星探査機の活躍により、これまでの予想よりもはるかに多くの天体が地下海を持つ可能性が浮かび上がってきています。
活発にプルームを噴出させている土星の衛星エンケラドスをはじめ、小惑星帯の準惑星ケレス、冥王星および衛星カロンがその一例になります。
観測データは限られていましたが、それでも他の天体のデータと照らし合わせることで、内部構造を推定したり、特に重要な天体内部の熱の動きを詳細に検討することができます。
分析の結果、5大衛星の表面付近の岩石は多孔質であり、内部の熱を保持する断熱性が高いことが判明。
また、衛星の誕生直後の数百年間は寿命の短い放射性物質の崩壊で熱が発生し、その余熱が内部の氷を融かす主要な熱源になることも判明しました。
今回の研究で分かったのは、潮汐力が生じたのは衛星が誕生した直後の軌道が不安定だった時期のみだということ。
潮汐力が働く天体では摩擦熱が生じ、内部を温める潮汐加熱と呼ばれる現象が起きることがあります。
さらに、潮汐力が強すぎると表面の岩石の多孔質性が失われてしまい、余熱を保持する断熱性能がが失われてしまう負の効果も判明しました。
一方、5大衛星の中で最も小さく、内部の熱が失われる速度が速いミランダの地下海は、誕生から10億年後までに凍り付いた可能性があることが分かりました。
4つの衛星に地下海が存在する場合、アンモニアに加えて塩化物が不凍剤として機能することで、地下海の平均水温は-5℃から-30℃であると推定されています。
地下海の推定される規模は、チタニアとオベロンでは深さが50キロ以下、アリエルとウンブリエルでは深さ25キロ以下になります。
その他の成果としては、ミランダには明確な核が存在しないこと、アリエルとウンブリエルには水を含んだ岩石の核、チタニアとオベロンは外側に水を含んだ岩石があり内側に乾いた岩石でできた核があると推定されました。
さらに、どの天体にも金属が主体の核は存在しないようです。
ただ、本当に地下海が凍結せずに現在まで残っているのかは、まだはっきりと分かっていません。
チタニアとオベロンにおける深さ50キロという地下海の規模は最大限の見積もりなんですが、氷天体の地下海としてはかなり小さい規模になります。
また、今回のモデル計算では、液体の水で構成された海ではなく、液体の水が隙間を満たした岩石の形で存続している可能性も指摘されています。
地下海の有無や、存在する場合どのような状態なのかは、各衛星の磁場を測定することで分かるかもしれません。
ただ、海水に含まれるアンモニアや塩化物が多い場合、海水による磁場はほとんど発生しなくなるので、観測による証明が困難になる可能性もあります。
NASAとアメリカ国立科学財団(NSF)は、10年ごとに“惑星科学10か年計画(Planetary Science Decadal Survey)”と呼ばれる計画書を出版していて、その時点での惑星科学における謎や課題、それらを解決するために推奨される探査や観測計画を取り上げています。
2023年はちょうど3冊目の計画が開始される時期。
その計画書の中で最優先課題として取り上げられているのが、天王星の周回探査計画なんですねー
計画にはもちろん5大衛星の観測も含まれているので、天王星の探査ミッションなどを通して、将来的には5大衛星の地下海の有無について、もっと多くのことが分かるようになるはずですよ。
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天王星は、太陽系の惑星の中では木星、土星に次いで3番目に大きく、木星、土星、海王星に次いで4番目に重い天体。
ガス惑星と呼ばれる木星や土星、海王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っていて、惑星の分類としては木星、土星、海王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類されています。
今回の研究で指摘しているのは、天王星の4つの氷衛星“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”の地下に海がある可能性です。
土星の衛星エンケラドスをはじめ、木星の衛星エウロパや海王星の衛星トリトンなどでも、潮汐加熱によって氷衛星の内部に広大な海が存在する可能性が指摘されています。
これらの衛星は外殻から間欠泉“プルーム”が噴出するなど活動が盛んで、衛星の表面は地質学的に短いタイムスケールで更新されていると考えられています。
ただ、過去の研究で明らかになっていたのは、天王星の4つの衛星には潮汐力がほとんど働かないこと…
それでは、地下海が維持されているとしたら何が内部を温めているのでしょうか?
どうやら、放射性物質の崩壊による加熱や不凍剤の役割を果たすアンモニア、断熱性のある多孔質の岩石が関わっているようです。
氷を主成分にする天王星の5大衛星
現在、天王星には27個の衛星が見つかっています。なかでもサイズが大きな“ミランダ”、“アリエル”、“ウンブリエル”、“チタニア”、“オベロン”は、天王星の5大衛星として知られているんですねー
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した天王星とその衛星。最も大きな5つの衛星であるミランダ、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンのほか、6番目に大きな衛星のパックも映っている。(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI) |
特に大きいチタニアとオベロンについては、海水に不凍剤(0℃を下回る温度でも水の凍結を防ぐ物質)の役割を果たすアンモニアが融け込んでいれば、現在も地下海が維持されているのではないかとする予測もありました。
さらに、ごく最近の火山活動の痕跡と思われるデータが得られたアリエルは興味深い観測対象といえます。
でも、近年になって分かってきたのは、そのような海水は物質として不安定であり、少なくとも不凍剤の存在だけでは地下海を維持できないことでした。
一方で、近年の惑星探査機の活躍により、これまでの予想よりもはるかに多くの天体が地下海を持つ可能性が浮かび上がってきています。
活発にプルームを噴出させている土星の衛星エンケラドスをはじめ、小惑星帯の準惑星ケレス、冥王星および衛星カロンがその一例になります。
エンケラドスの南極付近には間欠泉があり、水のプルーム(水柱)が時々宇宙空間へと放出されている。
これらはどれも近年に接近探査が行われた氷を主成分にする天体であり、天王星の5大衛星はこれらの天体とほぼ同じ大きさを持っています。他の氷天体のデータを元に地下海の有無を検討
今回の研究では、これまでに行われた氷を主成分にする天体の探査データを元に、天王星の5大衛星における地下海の有無について検討を行っています。この研究を進めているのは、ジェット推進研究所(JPL)のJulie Castillo-Rogezさんの研究チームです。
検討されたデータは、1986年にフライバイ探査を行ったNASAの惑星探査機“ボイジャー2号”で取得されたものしかなく、5大衛星については表面の約40%分のデータしかありませんでした。観測データは限られていましたが、それでも他の天体のデータと照らし合わせることで、内部構造を推定したり、特に重要な天体内部の熱の動きを詳細に検討することができます。
分析の結果、5大衛星の表面付近の岩石は多孔質であり、内部の熱を保持する断熱性が高いことが判明。
また、衛星の誕生直後の数百年間は寿命の短い放射性物質の崩壊で熱が発生し、その余熱が内部の氷を融かす主要な熱源になることも判明しました。
潮汐力に加熱は期待できない
一方で、他の氷天体で考慮される潮汐力は、5大衛星ではほとんど存在しないことも明らかになります。潮汐力は、重力によって起こる二次的効果の一種。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
5大衛星に潮汐力がほとんど働かないことは過去の研究でも示されていたことでした。今回の研究で分かったのは、潮汐力が生じたのは衛星が誕生した直後の軌道が不安定だった時期のみだということ。
潮汐力が働く天体では摩擦熱が生じ、内部を温める潮汐加熱と呼ばれる現象が起きることがあります。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。
でも、天王星の5大衛星では、潮汐力の影響が最も大きかったミランダやアリエルにおいてさえ、内部の過熱は放射性物質の崩壊熱よりもずっと小さいことが判明しています。木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。
さらに、潮汐力が強すぎると表面の岩石の多孔質性が失われてしまい、余熱を保持する断熱性能がが失われてしまう負の効果も判明しました。
4つの衛星には現在でも地下海が維持されている
これらを考慮して分かってきたのは、アリエル、ウンブリエル、チタニア、オベロンはサイズが十分大きいので、現在でも地下海が維持されている可能性をがあること。一方、5大衛星の中で最も小さく、内部の熱が失われる速度が速いミランダの地下海は、誕生から10億年後までに凍り付いた可能性があることが分かりました。
4つの衛星に地下海が存在する場合、アンモニアに加えて塩化物が不凍剤として機能することで、地下海の平均水温は-5℃から-30℃であると推定されています。
地下海の推定される規模は、チタニアとオベロンでは深さが50キロ以下、アリエルとウンブリエルでは深さ25キロ以下になります。
今回の研究で推定された5大衛星の内部構造。アリエルとウンブリエルには深さ25キロ以下、チタニアとオベロンには深さ50キロ以下の海が地下に存在することが推定された。一方、ミランダの地下海は完全に凍結していると推定されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech) |
さらに、どの天体にも金属が主体の核は存在しないようです。
ただ、本当に地下海が凍結せずに現在まで残っているのかは、まだはっきりと分かっていません。
チタニアとオベロンにおける深さ50キロという地下海の規模は最大限の見積もりなんですが、氷天体の地下海としてはかなり小さい規模になります。
また、今回のモデル計算では、液体の水で構成された海ではなく、液体の水が隙間を満たした岩石の形で存続している可能性も指摘されています。
地下海の有無や、存在する場合どのような状態なのかは、各衛星の磁場を測定することで分かるかもしれません。
ただ、海水に含まれるアンモニアや塩化物が多い場合、海水による磁場はほとんど発生しなくなるので、観測による証明が困難になる可能性もあります。
NASAとアメリカ国立科学財団(NSF)は、10年ごとに“惑星科学10か年計画(Planetary Science Decadal Survey)”と呼ばれる計画書を出版していて、その時点での惑星科学における謎や課題、それらを解決するために推奨される探査や観測計画を取り上げています。
2023年はちょうど3冊目の計画が開始される時期。
その計画書の中で最優先課題として取り上げられているのが、天王星の周回探査計画なんですねー
計画にはもちろん5大衛星の観測も含まれているので、天王星の探査ミッションなどを通して、将来的には5大衛星の地下海の有無について、もっと多くのことが分かるようになるはずですよ。
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