宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

なぜ、恒星が存在しない孤立した褐色矮星でオーロラが発生するのか?

2024年01月22日 | 宇宙 space
美しい天文現象“オーロラ”は地球以外の天体でも観測されています。

オーロラは恒星から放出される電気を帯びた粒子“荷電粒子”と大気との衝突で発生する現象。
なので、近くに恒星が無い天体でのオーロラの発生は、予測されていませんでした。

今回の研究では、恒星の周辺を公転していない孤立した褐色矮星“W1935”に、オーロラと思われる赤外線の発光を観測しています。

孤立した褐色矮星でオーロラが観測されたのは、今回が初めてのこと。
この発見は予想外なことであり、その発生理由が注目されています。
この研究は、アメリカ自然史博物館のJackie Fahertyさんたちの研究チームが進めています。
図1.赤外線で輝くオーロラを持つ“W1935”のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA & Leah Hustak (STScI))
図1.赤外線で輝くオーロラを持つ“W1935”のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA & Leah Hustak (STScI))


恒星が存在しない天体ではオーロラは発生しない

視覚的に美しく、知名度の高い天文現象オーロラ。
オーロラは大気を構成する分子に、宇宙から降り注ぐ高速の荷電粒子が衝突することで発生します。

この理由から、オーロラは地球以外でも大気が存在する天体で発生しています。
例えば、太陽系の惑星では、濃い大気が存在しない水星を除いたすべての惑星で、オーロラの発生が確認されています。

オーロラの発生には大気と共に、高速かつ大量の荷電粒子が必要になります。

太陽系では、大量の荷電粒子の源は太陽になります。
これは他の恒星でも同じことが言えるので、太陽系以外の惑星系でもオーロラの発生が観測されています。
裏を返せば、近くに恒星が存在しない天体の場合には、オーロラも観測されないことになります。


孤立した褐色矮星で発生する気温の上昇

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、12個の褐色矮星の観測を行っています。

褐色矮星は、木星のような巨大ガス惑星と太陽のような恒星との中間的な性質を持つ天体で、その性質が注目されてきました。

観測した12個の褐色矮星には、お互いの性質が似ている“W1935”と“W2220”が含まれていて、どちらも近くに恒星が無い孤立した褐色矮星で、非常に低温でした。

このような、低温の褐色矮星の大気中にはメタンが多く含まれていることが知られていて、これはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が観測できる赤外線の波長で見つけることができます。

実際に、“W2220”の観測ではメタン分子によって特定の波長が吸収され、その分だけ暗くなった赤外線が予測通り観測されていました。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“W1935”と“W2220”のそれぞれの観測結果。メタンに関連する赤外線の波長について、“W2220”(白色)では弱い、一方“W1935”(青色)は赤外線が強いことが分かる。(Credit: NASA, ESA, CSA & Leah Hustak (STScI))
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“W1935”と“W2220”のそれぞれの観測結果。メタンに関連する赤外線の波長について、“W2220”(白色)では弱い、一方“W1935”(青色)は赤外線が強いことが分かる。(Credit: NASA, ESA, CSA & Leah Hustak (STScI))
でも、クローンとも例えられるほど似ているはずの“W1935”で得られたのは、メタン分子による赤外線の吸収ではなく、メタン分子から赤外線が放出されるという予想外な観測結果でした。
大気を構成する分子からの発光であることから、これはオーロラを観測していることになります。

そこで研究チームでは、それぞれの大気の温度をシミュレーション。
すると、“W2220”は予想通り高度が上がるほど気温が低下するのに対して、“W1935”では高度が上がるほど気温が上昇するという逆転現象が見られました。

このような気温の逆転現象は地球の成層圏でも観察されていて、近くに恒星のような熱源がある場合には不思議な現象ではありません。
でも、孤立した褐色矮星であるはずの“W1935”で発生するのは不可解なことと言えます。


オーロラが発生する理由の解明

研究チームでは、“W1935”でオーロラが発生している理由は今のところ不明としつつ、いくつかの推測を提示しています。

1つ目は、“W1935”に活発な活動をしている衛星が存在する可能性です。
木星のイオや土星のエンケラドスのような衛星は、物質を宇宙空間へと噴出する活発な活動が確認されていて、噴出した物質が衝突することでオーロラが発生します。
木星や土星の場合、太陽からの荷電粒子もオーロラ発生の理由となっていますが、近くに恒星が無い“W1935”では、これがオーロラ発生の唯一の理由になっているのかもしれません。

2つ目は、“W1935”の内部の熱源が大気を加熱し、その熱エネルギーがオーロラを発生させているというものです。
顕著な大気の温度逆転現象は木星や土星でも観察されていて、太陽からの熱だけでは説明できないことがすでに分かっています。
惑星内部の熱(※1)が、大気循環で外側へと輸送されているとすれば、この逆転現象を説明できます。
ただ、木星や土星に関しては、大気上層部の過熱はオーロラによるものという説の方が支持されています。
そのため、“W1935”における熱とオーロラの関係は逆である可能性があります。
内部の熱源についての詳細は不明だが、惑星が重力によってわずかに潰れることや、惑星内部の対流による重力エネルギーが熱エネルギーに変換されることなどが想定されている。

3つ目は、星間プラズマとの衝突です。
これについては詳細はほとんど分かっていませんが、近くに恒星が無い場合の荷電粒子の発生源としては最も有力な候補になります。

どの説が正しいのか、あるいは他の理由で“W1935”のオーロラが発生しているのかは現時点では不明です。
でも、いずれにしても新たな謎がもたらされたことは、ジェームズウェブ宇宙望遠鏡がとても高性能であることを示しています。

“W1935”のオーロラは温度に換算すると約200℃あり、これは観測された中で最も温度の低いオーロラになります。
このようなオーロラの観測は難しいので、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の活躍を示す1つの成果になるはずです。


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿