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将来の月面基地で資源として使えるかも… NASAが太陽に照らされた月の表面に水分子を発見!

2020年11月12日 | 月の探査
2022年11月15日更新

太陽に照らされた月の表面に水分子(H2O)を発見したことをNASAが発表しました。
これまで、月の表面に水素は見つかっていました。
でも、それが水分子なのか、それとも鉱物と結びついた形で存在する水酸基(OH)なのかは分からず…
分かっていたのは、月の極域にある永久影の中に水分子が存在する可能性があることでした。
今回の発見と合わせると、水分子が月の表面全体に分布している可能性が出てきたことになります。

月の極域には水の氷が存在している

月の水をめぐる研究には長~い歴史があります。
ただ、アポロ計画が行われた時代には、月は完全に乾燥した世界だと考えられていたんですねー

それは、月では太陽の光が当たる部分の温度が約120度にもなるからです。
水は蒸発するうえ、月には大気がほとんど無いので、その蒸発した水を保護することができず、すぐに宇宙空間へ拡散してしまいます。

でも、その後の探査により、月の極にある“永久影”の中に水が氷の状態で存在する可能性が浮上。
月は自転軸の傾きがとても小さいので、月の極域にあるクレーターの内部には、太陽の光が決して届くことのない領域が生じています。
これを永久影といい、温度は最高でもマイナス157度ほどにしかなりません。

なので、そこに彗星が落下するなどして水がもたらされれば、氷の状態で保存される可能性があります。

ただ、まだ確定には至っておらず、水分子なのか、あるいは水酸基なのかははっきりしていません。

仮に水が存在するとしても、その埋蔵量については計算によってまちまち… 本当のところよく分かっていないのが現状です。

空飛ぶ天文台で月を観測する

一方、月の表面の日当たりのいい場所では、これまでに水素が存在することが分かっていました。
でも、それが水分子の形で存在するのか、水酸基として存在するのかを明確に区別することができてません。

そこで研究チームは、NASAとドイツ航空宇宙センター“DLR”が運用する成層圏赤外線天文台“SOFIA”を使って観測を実施。
“SOFIA”は、ボーイング747型機に口径2.5メートルの赤外線望遠鏡を搭載し、高度約14キロの成層圏を飛びながら観測する「空飛ぶ天文台」として知られている。
【追記1】
2022年9月28日に“SOFIA”の最後の調査飛行が実施されました。
元ユナイテッド航空機の“SOFIA”の機齢は45年にものぼっていました。
ベースになっている747SPは、“ジャンボジェット”ことボーイング747シリーズの中で唯一となる胴体短縮型。
通常のタイプより約15メートル縮められた胴体は、航続距離の延長が目的でした。
この世代の旅客機としては、屈指のロングフライトが可能な機体だったようです。
“ジャンボジェット”シリーズで最もメジャーな747-400が製造されたのは、貨物型などを含めて700機ほど。
対して747SPの製造機数は45機、シリーズの中でも少数派のタイプで、NASAでも「稼働している数少ない一機」としていました。
NASAでは同機の退役理由を「運用コストと生産性が見合わなくなったため」としています。
“SOFIA”の退役により、激レア機747SPがまた1機姿を消すことになりました。
【追記2】
2022年9月に運用を終了した“SOFIA(機体記号:N747NA)”ですが、アメリカ・アリゾナ州ツーソンにあるピマ航空宇宙博物館で保存・展示することになりました。
ピマ航空宇宙博物館は、6つの格納庫、80エイカーの屋外展示場に、世界中から集められた425機以上の航空機が展示される、世界最大級の航空宇宙博物館です。
“SOFIA”は、現在保管されているカリフォルニア州パームデールのNASAアームストロング飛行研究センターから、ピマ航空宇宙博物館のあるアリゾナ州ツーソンへ、2022年12月13日に最終フライトを行います。
“SOFIA”の展示については、公開時期など改めて発表されるそうですよ。
NASAとドイツ航空宇宙センターが運用する成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
NASAとドイツ航空宇宙センターが運用する成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
物質は、その組成や構造によって、特定の波長の光を吸収したり放射したりする性質があります。
なので、その光を観測することで天体の組成を調べることができます。

特に赤外線の波長域を使えば、水をはじめ、可視光の波長域では見られない様々な物質を調べることができます。

でも地上だと、地球の大気に含まれる水蒸気や二酸化炭素の吸収や放射の影響を受けてしまいます。
なので、地上の天文台からは赤外線領域を精度良く観測することが原理的にできないんですねー

一方、衛星や探査機などに搭載して宇宙に望遠鏡を持って行くには、大きさや質量などに大きな制約があり、性能が限られてしまいます。

そこで、大気の薄い成層圏から、衛星に搭載が難しい大きな望遠鏡で観測できる“SOFIA”の登場になったわけです。

どのようにして水が作られ維持されているのか

本来、ブラックホールや星団、銀河などの観測に使われている“SOFIA”。
月の観測は2018年の試験観測が初めてのことでした。
水分子が見つかった月のクラヴィウス・クレーターの位置と、それを発見した成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
水分子が見つかった月のクラヴィウス・クレーターの位置と、それを発見した成層圏赤外線天文台“SOFIA”。(Credit: NASA)
観測が行われた場所は、月の南半球にあるクラヴィウス・クレーター。
すると、6.1μmの水分子に特有の波長を検出したんですねー

観測の結果、1m3の土の中に、100~412ppmの水分子が閉じ込められていることが分かりました。

では、水はどのようにして作られるのでしょうか?
空気のない過酷な月面で、どのようにして水が存在できるのでしょうか?
この発見は、新たな謎を投げかけることなりました。

厚い大気が無ければ、太陽の光を浴びた月面の水は宇宙空間に失われてしまうはず…
何かが水を発生させ、そして何かが水を閉じ込めているはずです。

水を発生させるシナリオとして、研究チームでは以下の可能性を挙げています。
水は月面に降り注ぐマイクロメテオライト(流星チリ)によって、少しずつ運ばれ堆積している。
太陽風が月面に水素を届け、月の土壌にある酸素を含む鉱物と化学反応を起こして水酸基を作り、さらにマイクロメテオライトの衝突による放射線が、その水酸基を水に変えている。

また、その水が月に貯蔵されているメカニズムとして挙げているのは以下の可能性です。
マイクロメテオライトの衝突で生じた熱によって、土壌中のガラスに閉じ込められた。
月の土の結晶の間に入り込み、そこに日差しが当たらなければ存在し続けることができる。

研究チームでは、今後も“SOFIA”使った観測を続けることを考えています。
太陽の光が当たる別の場所や、月の満ち欠けの間に水がどう動くのかをさらに観測することで、水がどのようにして生成され、貯蔵されるのかという謎を解き明かすそうです。
NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したクラヴィウス・クレーター。(Credit: NASA, Moon Trek, USGS, and LRO)
NASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したクラヴィウス・クレーター。(Credit: NASA, Moon Trek, USGS, and LRO)

月の水は資源として利用できるのか

一方、月の水をめぐる問題は、科学的な点だけではありません。
有人月面基地の資源として利用できるかどうか、という点でも重要になっています。

水は人間が生きていく上で必要不可欠なものです。
さらに、電気分解して水素と酸素にすることで、酸素を生命維持に使ったり、水素と酸素をロケットの推進剤にすることもできます。

現在、運用中の国際宇宙ステーションでは、水は定期的に地球から持ち込むことでまかなっています。

では、月にも同じように水を輸送できるのでしょうか?

輸送には巨大なロケットが必要な上に、何度も運ぶ必要があり、莫大なコストがかかることになります。
なので、月で水が現地調達できるかどうかは、これからの有人月探査や、月面都市などが実現するかどうかのカギを握っているといえます。

もし、月の水を資源として利用することができれば、地球から運ぶ水の量を少なくできる上に、より多くの科学機器などを運ぶことができ、新たな科学的発見を可能にすることができます。

現在、NASAが進めている有人月探査計画“アルテミス”で予定されているのは、水が存在する可能性がある月の南極を探査すること。
もし、月の表面にも水が存在するなら、探査や月面基地の建設候補地が大きく増えることになります。

ただ、今回“SOFIA”がクラヴィウス・クレーターで見つけた1m3あたり100~412ppmという水の量は、地球のサハラ砂漠に含まれる量の100分の1ほど…
サッカーのピッチほどの広さに、300mlの飲料缶の中身があるようなものです。

また、研究チームが挙げているように、水がガラスや結晶の間に存在するのであれば、取り出して利用するのはやや難しくなります。

一方、近年では水を完全にリサイクルする技術も確立されつつあります。
なので、最初にある程度まとまった量を取り出すことができるなら、利用価値が生まれる見込みはあります。
NASAが国際協力で実現を目指している有人月探査計画“アルテミス”のイメージ図。現時点では、すでに水があるとされる月の南極を拠点に探査を行うことが検討されている。(Credit: NASA)
NASAが国際協力で実現を目指している有人月探査計画“アルテミス”のイメージ図。現時点では、すでに水があるとされる月の南極を拠点に探査を行うことが検討されている。(Credit: NASA)

氷を安定した状態に保つ“コールド・トラップ”というクレーター

今回の研究とは別に、理論モデルとNASAの月探査機“ルナー・リコネサンス・オービター”のデータを用いた論文があります。

この論文で指摘しているのは、月の全域に現在予測されているよりも多くの“コールド・トラップ”と呼ばれるクレーターが存在する可能性です。
気温が常に氷点下になっている小さな影が“コールド・トラップ”。“コールド・トラップ”では、クレーター内に堆積した氷が上空の大気を冷却して冷たい空気の層を形成。この冷たい大気の層が遮蔽物のようになることで、クレーター内の氷を安定した状態に保っていると考えられている。太陽系初期の歴史が、このクレーター内に化石のように残されている可能性がある。
まだ“コールド・トラップ”の内部で水を直接検出したわけではありません。

なので、今後必要になるのは、クラヴィウス・クレーターや小さな“コールド・トラップ”などに探査機を送り、水の有無や埋蔵量についてより詳細かつ直接的に調べること。
また、その水や氷にアクセスできるか、取り出せるかといったことも調べる必要があります。

これらの結果が良好なものでない限り、資源としてあてにすることはできません。

すでにNASAでは、水を探すことを目的とした超小型探査機“ルナー・フラッシュライト”を2021年に、また同じく水を探す無人探査車“ヴァイパー”を2022年に打ち上げることを計画しています。

これらの探査により、月の水についてより多くのことが分かるのかもしれません。
そして、より多くの利用しやすい水の存在が明らかになるといいですね。


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