20世紀怪奇小説の鬼才と呼ばれるウイリアム・ホープ・ホジスンですが、このヒト、元船員という異色の経歴を持つ作家なのです。
今回ご紹介する作品は『The voice in the nighit and other stories(夜の声およびその他の短編集)』という表題の文庫本で、2007年に『復刊フェア』として売り出されたものですが、元船員らしい『海洋奇譚集』といった趣の作品集です。
※W.H.ホジスン『夜の声』創元推理文庫 / 2007年9月14日第4版
表題作は、夜中に闇の中から一隻のボートが近づいてくる。乗っているのは一人の男、実は無人島に漂着した男女がだんだん食糧が尽きてきて・・・島に無数に生えているキノコを口にしたところ・・・というオハナシで、これを翻案したのが実は東宝の『マタンゴ(1963年)』という作品・・・あっ!写真(↓)を見たらもはやネタバレ!?ですね。
※田中友幸製作、本多猪四郎監督『マタンゴ』1963年東宝映画
かつて翻訳家でSF評論家の石川喬二氏が『怪物とは、それに襲われるのが怖い存在ではなく、それになることが怖い存在である』と喝破したように、まさしくこのマタンゴこそは『それになることが怖い存在』に違いありません。
※マタンゴを食べたものは人間からキノコの化物へと変貌していく・・・。
子供ゴコロに物凄く怖かった記憶があります。
その他は纏めれば『未知の海洋には恐ろしい生物が潜んでいる』といったストーリーで、単純に巨大な海蛇が船を襲う話(熱帯の恐怖)から、『マックイーンの絶対の危機』みたいなSF話(カビの船)まで、海洋を舞台にしながらヴァラエティ豊かな短編集です。
コロナウイルス防疫の観点から『家で過ごす』にはもってこいの一冊です。オススメします。
<収録作品>
夜の声
熱帯の恐怖
廃船の謎
グレイケン号の発見
石の船
カビの船
ウドの島
水槽の恐怖