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『怪物』が愛読する本のひとつがミルトンの『失楽園』であるのは、じつに象徴的です。
※『失楽園』の挿絵から・・・女は強い。
嘆き悲しむアダムに比べるとイヴは『白子屋お熊』のように堂々としています。
西洋には『原罪』という考え方があり『人類の祖先たるアダムが神に逆らい智恵の木の実を食べ楽園から追放され、その罪は全人類に行き渡っている』というものです。
ちょっと待てよ。では繋ぎ合わされた屍体に生を吹き込まれたこの『怪物』こそは楽園の住人、すなわち無原罪の存在であるに違いありません。ところが、この地上に生まれ落ちたばかりに、その外見の醜さから、とんでもない苦しみを負わされることになってしまうのです。
『怪物』に言葉や文字を教えた全盲の老教授は『怪物』の純粋な心に感動し、息子夫婦に『怪物』を引き合わせようとします。この出会いはまたもや悲劇に終わります。あたら眼が見えるばかりに『怪物』の美しい心に気付くことができず、息子夫婦は『怪物』を追い払ってしまうのです。
怒り絶望した『怪物』は自分の取るべき行動について考えます。結論は『ローマ皇帝ならどうする?・・・そうだ!復讐だ!』でした。一家の住む小屋に火を付けて、一家が焼け死ぬさまを見届けた怪物は、自分を造り出した父親を捜す旅に出ます。そう、『怪物』は今では唯一の手掛かりだった研究ノートが読めるのです。それには『ヴィクター・フランケンシュタイン』の名がはっきりと書かれていました。
人間の持つ『悪』や『罪』を学んでしまった『怪物』は、とうとう自分の創造主を捜しあてます。
ヴィクター・フランケンシュタイン。彼こそは自分をこの世に送り出した存在です。
『怪物』は、これまでの人生で自分がいかに孤独だったかを語り『人間にも動物にも必ず連れ合いがいる』と説いて『異形のアダムたる自分とともに生きてくれるイヴを造ること』をヴィクターに要求します。『伴侶を造ってくれれば誰も知らないところへ行って二人で静かに暮らすから』と。まるで愛の逃避行です。なんて切ない話なんでしょう。
ヴィクターはイギリスの漁村に研究所を定め、今度は女の屍体をひそかに集めて切り刻む毎日を送ることになります。毎日血みどろの生活ってのは悪夢の中の出来事のようでゾッとしませんが、努力の甲斐あって屍体から今度は美しい女を作り上げます。
このくだりは映画『フランケンシュタインの花嫁』にも描かれていますが、映画の翻案は強烈で、完成した女性は『私はイケメンが好きなのよ』と曰(のたま)わって『怪物』には洟もひっかけない・・・というミもフタもないストーリーだったと記憶しています。
ところが、いよいよ命を吹き込もうという段階でヴィクターは怖じ気付きます。『怪物』をこれ以上増やしてはならないと、ヴィクターは命を与える前にこの死美人を『殺して』しまうのです。
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