煮卵団のスタジオ練習の後、飲み会は無しにすぐ解散。みんな「M-1グランプリ2021」を観たかったからだ。
ある意味、エンタメの1年間の締め括り。今年はベテランコンビ錦鯉が見事優勝。
1970年代の「架空のフェス」に例えると、ピンク・フロイドやスティーリー・ダンのような技巧派が聴衆を唸らせながらも、結局セックス・ピストルズの時が単純に一番盛り上がった、そんな感じ。
最終結果発表時の長谷川の涙。もらい泣きするサンド富澤とナイツ塙。さらにそれにもらい泣きしてしまった。ではいつものように、ネタ順にコメント。
■モグライダー
今年の初出場5組の中の1組。知らないコンビだったので予備情報一切無し。トップバッターから度肝を抜かれた。『さそり座の女』のネタは秀逸。個人的に今回のM-1で一番評価しているネタである。「いいえ、私はさそり座の女~」と同曲の「いいえ」から始まる歌詞に着目し話を広げていく。発売から50年経ち、今や誰もが知る国民的ヒット曲だが、こういう風に漫才に取り入れる発想は無かった。またツッコミの芝が、何気に美川憲一の物まねを入れて歌うところが面白い空気作りに一役買っていた。トップバッターでこれだけ場内を沸かしたのは上出来。一組目では過去最高点だとか。タラレバを言っても仕方ないが、もっと後の順番だっタラ、と思ってしまう。
■ランジャタイ
正直よく分からなかった。去年のマヂカルラブリーの例があるように、舞台の上で小道具無しに二人(以上)がしゃべったり面白いことをするのが広義の漫才とするなら、これも漫才か。審査員の点数は思ったより高かった。ただやはり最終最下位になったのは、正しい結果である。M-1の決勝という大舞台で「一発放り込んだ」という点では一定の評価はしたい。
■ゆにばーす
この二人は年々漫才が上手く面白くなっている。以前は、はらちゃんのボケが雑で、わりと平場で良いトークをする川瀬名人のツッコミがキレイにはまらないことがあった。今はそこのバランスが取れている。最初にM-1に出たときの漫才と今回のを見比べると、各段に進化していることが分かるだろう。「男と女の間に友情が存在するか」というテーマでディベートをするという展開だが、思いの他複雑なやりとりになってしまった。今どっちがどういう理屈で相手を言い負かしているのかが、即座に把握しにくかった。しかも言い負かされそうな側(主に川瀬名人)が声を張り上げて反撃するので余計に分かりにくい。これって私の理解力不足!?
■ハライチ
M-1最終年。敗者復活戦から這い上がってきた。コンビでもピンでも、十分売れている二人だが、漫才で天下を取りたいという気持ちが前面に出て、応援したくなる。岩井の言葉を少しずつ変化させるボケに、澤部が延々とノリツッコミを繰り返すといういつもの形ではなく、お互いキレる掛け合い、しかもクールな岩井が舞台で暴れ回るという、まったくタイプの違うネタだった。最初「新しいな」と期待感を持ったが、後半、岩井のキレ方のテンションがまったく同じで、少しダレてきた。会場も笑いが高まっていかなかった。演じていた二人も「思ったよりウケない…」と感じながらやっていただろう。残念ながら結果は惨敗だが、二人の芸人魂を大いに賞賛したい。
■真空ジェシカ
まず服装が今回の出場者の中で一番オシャレ。男前過ぎない程度にルックスも良い。見た目通りの都会派のシャレたネタだった。「一日市長」という設定でコントスタイルにし、かなり手数多くボケをいれていく。面白かったが、後半尻上上がりに笑いの渦が巻き起こっていくという展開にならなかったのは残念である。それにしてお面白い言葉の使い手だ。「十日副師長」、「罪人(つみんちゅ)」、「お詫びして定時制入る」、「好きな法律だけ守ればいい」「駒澤大学のタスキ」、「ジャイロ回転(江夏、阪神の川尻」、「二進法」、「ミッキーは一人」「ハンドサインでヘルプミー」などなど。相当なインテリ知識人だと思って、ウィキペディアで調べると、それぞれ慶應と青学出身とのこと。納得。
■オズワルド
一本目は完璧な漫才だった。「友達を一人くれ」というぶっ飛んだ設定。キモオモロイ畠中のボケに、伊藤のワードセンスの良いツッコミ。そのバランスが絶妙。元来テンション低めの漫才だが、客の笑いと伊藤のツッコミのテンションが、相乗効果でどんどん上がってきて、理想の舞台になった。期待した二本目は爆発力不足。後半、真逆なキャラクターの畠中が増えていくという展開は、舞台に広がりがあって良かったが、ちょっと分かりにくかった。優勝候補だったし、一本目が良かっただけに、できれば二本目もあのレベルのネタが欲しかった。本人たちは悔しいだろう。十分売れっ子だが、それに甘んじることなく、漫才道に精進してほしい。
■ロングコートダディ
関西では随分知名度も上がっている。個人的には今回台風の目になるだろうと思っていたコンビ。その期待は十分応えてくれたと思う。堂前は、『座王』での大喜利の回答や、優勝回数から観ても今の若手で笑いのセンスはトップレベルだと思う。今回のネタも「生まれ変わる練習」、「天界全体の役をする」、「(生まれ変わりが)肉うどん」とか、発想力が無いとできないネタだった。出番次第では十分に最終決戦に残れるネタだと思うが、ここ数年のM-1は、このレベルのネタが3組以上出る。そうするとネタ順や知名度みたいなところで順位が変わってしまう。今回はそのハンディキャップをもろにかぶってしまった。センスの良いコンビなので、さらに売れて東京にも進出してほしい。
■錦鯉
いやあ、アホやったなあ。アホ過ぎ。一本目も二本目もアホ過ぎ。会場は大いに沸いた。これは錦鯉が去年も決勝に出て、その後売れっ子になってTV番組への出演も増え、長谷川が50歳ということを世間が十分認知しているからこそウケたのだ。言わば1年かけて、自分たちの漫才スタイルを世に知らしめるという“地ならし”が出来ていたからこその優勝である。今回の優勝でさらにTVへの出演回数も増えるだろう。芸人の間では、長谷川のアホさよりも、実は渡辺の笑いのセンスやクレバーさが評価されているそうだ。オードリーが最初春日のキワモノ的人気に火が付き、その後若林の実力を広く世間が知って盤石の地位を築いたように、長谷川、その次渡辺と、両方の面白さが認知されれば、“守備範囲の広い芸人”として末永く売れるだろう。おめでとう。
■インディアンス
インディアンスの漫才はあまり好みではない。田渕がボケ倒すがキムがそれを拾え切れず、結局田渕が暴走していただけ、みたいな漫才。結局、聴いた後「どんな漫才やったっけ!?」と思うことが多い。今回はしっかり掛け合いになっていた。最終決戦に残ったのは納得だし、3組の中ではインディアンスが一番良かった。これだけのスピードで漫才がぶれないというのは、実力がある証拠である。今の漫才コンビでスピードが速いのは、NON STYLEかトレンディエンジェルだが(ウーマンラッシュアワーは村本が速すぎて逆にバランスが悪い)、インディアンスはこれを超えた。あとは記憶に残るような一本芯の通ったネタが欲しい。
■モモ
「○○顔やないか」というお互いのツッコミボケのスタイル。「○○」の部分が後半になればなるほど、面白い言葉がチョイスされて笑いが増えていく。オール巨人が「前半もったいなかった。もっと最初から面白い言葉を持ってこれなかったか!?」みたいなコメントをしていたが、どうだろう。序盤から今回の後半レベルのワードを出し、そこからさらにマニアックなワードへ展開させていくのは相当難しいのではないか。なぜなら、「◯◯顔やないか」のやりとりを聴き始めた聴衆に「ガラ悪顔とオタク顔のコントラストで掛け合う漫才」ということを理解させるには、最初のワードチョイスはひねらず分かりやすい方がいいと思うのだ。ミルクボーイみたいに、フォーマットのしっかりした漫才なので、これからどう発展させていくかが楽しみである。
以上、54歳にもなってこんなことを真面目に書いている自分がつくづく情けなく、かつ、わりと好きだったりする。
ある意味、エンタメの1年間の締め括り。今年はベテランコンビ錦鯉が見事優勝。
1970年代の「架空のフェス」に例えると、ピンク・フロイドやスティーリー・ダンのような技巧派が聴衆を唸らせながらも、結局セックス・ピストルズの時が単純に一番盛り上がった、そんな感じ。
最終結果発表時の長谷川の涙。もらい泣きするサンド富澤とナイツ塙。さらにそれにもらい泣きしてしまった。ではいつものように、ネタ順にコメント。
■モグライダー
今年の初出場5組の中の1組。知らないコンビだったので予備情報一切無し。トップバッターから度肝を抜かれた。『さそり座の女』のネタは秀逸。個人的に今回のM-1で一番評価しているネタである。「いいえ、私はさそり座の女~」と同曲の「いいえ」から始まる歌詞に着目し話を広げていく。発売から50年経ち、今や誰もが知る国民的ヒット曲だが、こういう風に漫才に取り入れる発想は無かった。またツッコミの芝が、何気に美川憲一の物まねを入れて歌うところが面白い空気作りに一役買っていた。トップバッターでこれだけ場内を沸かしたのは上出来。一組目では過去最高点だとか。タラレバを言っても仕方ないが、もっと後の順番だっタラ、と思ってしまう。
■ランジャタイ
正直よく分からなかった。去年のマヂカルラブリーの例があるように、舞台の上で小道具無しに二人(以上)がしゃべったり面白いことをするのが広義の漫才とするなら、これも漫才か。審査員の点数は思ったより高かった。ただやはり最終最下位になったのは、正しい結果である。M-1の決勝という大舞台で「一発放り込んだ」という点では一定の評価はしたい。
■ゆにばーす
この二人は年々漫才が上手く面白くなっている。以前は、はらちゃんのボケが雑で、わりと平場で良いトークをする川瀬名人のツッコミがキレイにはまらないことがあった。今はそこのバランスが取れている。最初にM-1に出たときの漫才と今回のを見比べると、各段に進化していることが分かるだろう。「男と女の間に友情が存在するか」というテーマでディベートをするという展開だが、思いの他複雑なやりとりになってしまった。今どっちがどういう理屈で相手を言い負かしているのかが、即座に把握しにくかった。しかも言い負かされそうな側(主に川瀬名人)が声を張り上げて反撃するので余計に分かりにくい。これって私の理解力不足!?
■ハライチ
M-1最終年。敗者復活戦から這い上がってきた。コンビでもピンでも、十分売れている二人だが、漫才で天下を取りたいという気持ちが前面に出て、応援したくなる。岩井の言葉を少しずつ変化させるボケに、澤部が延々とノリツッコミを繰り返すといういつもの形ではなく、お互いキレる掛け合い、しかもクールな岩井が舞台で暴れ回るという、まったくタイプの違うネタだった。最初「新しいな」と期待感を持ったが、後半、岩井のキレ方のテンションがまったく同じで、少しダレてきた。会場も笑いが高まっていかなかった。演じていた二人も「思ったよりウケない…」と感じながらやっていただろう。残念ながら結果は惨敗だが、二人の芸人魂を大いに賞賛したい。
■真空ジェシカ
まず服装が今回の出場者の中で一番オシャレ。男前過ぎない程度にルックスも良い。見た目通りの都会派のシャレたネタだった。「一日市長」という設定でコントスタイルにし、かなり手数多くボケをいれていく。面白かったが、後半尻上上がりに笑いの渦が巻き起こっていくという展開にならなかったのは残念である。それにしてお面白い言葉の使い手だ。「十日副師長」、「罪人(つみんちゅ)」、「お詫びして定時制入る」、「好きな法律だけ守ればいい」「駒澤大学のタスキ」、「ジャイロ回転(江夏、阪神の川尻」、「二進法」、「ミッキーは一人」「ハンドサインでヘルプミー」などなど。相当なインテリ知識人だと思って、ウィキペディアで調べると、それぞれ慶應と青学出身とのこと。納得。
■オズワルド
一本目は完璧な漫才だった。「友達を一人くれ」というぶっ飛んだ設定。キモオモロイ畠中のボケに、伊藤のワードセンスの良いツッコミ。そのバランスが絶妙。元来テンション低めの漫才だが、客の笑いと伊藤のツッコミのテンションが、相乗効果でどんどん上がってきて、理想の舞台になった。期待した二本目は爆発力不足。後半、真逆なキャラクターの畠中が増えていくという展開は、舞台に広がりがあって良かったが、ちょっと分かりにくかった。優勝候補だったし、一本目が良かっただけに、できれば二本目もあのレベルのネタが欲しかった。本人たちは悔しいだろう。十分売れっ子だが、それに甘んじることなく、漫才道に精進してほしい。
■ロングコートダディ
関西では随分知名度も上がっている。個人的には今回台風の目になるだろうと思っていたコンビ。その期待は十分応えてくれたと思う。堂前は、『座王』での大喜利の回答や、優勝回数から観ても今の若手で笑いのセンスはトップレベルだと思う。今回のネタも「生まれ変わる練習」、「天界全体の役をする」、「(生まれ変わりが)肉うどん」とか、発想力が無いとできないネタだった。出番次第では十分に最終決戦に残れるネタだと思うが、ここ数年のM-1は、このレベルのネタが3組以上出る。そうするとネタ順や知名度みたいなところで順位が変わってしまう。今回はそのハンディキャップをもろにかぶってしまった。センスの良いコンビなので、さらに売れて東京にも進出してほしい。
■錦鯉
いやあ、アホやったなあ。アホ過ぎ。一本目も二本目もアホ過ぎ。会場は大いに沸いた。これは錦鯉が去年も決勝に出て、その後売れっ子になってTV番組への出演も増え、長谷川が50歳ということを世間が十分認知しているからこそウケたのだ。言わば1年かけて、自分たちの漫才スタイルを世に知らしめるという“地ならし”が出来ていたからこその優勝である。今回の優勝でさらにTVへの出演回数も増えるだろう。芸人の間では、長谷川のアホさよりも、実は渡辺の笑いのセンスやクレバーさが評価されているそうだ。オードリーが最初春日のキワモノ的人気に火が付き、その後若林の実力を広く世間が知って盤石の地位を築いたように、長谷川、その次渡辺と、両方の面白さが認知されれば、“守備範囲の広い芸人”として末永く売れるだろう。おめでとう。
■インディアンス
インディアンスの漫才はあまり好みではない。田渕がボケ倒すがキムがそれを拾え切れず、結局田渕が暴走していただけ、みたいな漫才。結局、聴いた後「どんな漫才やったっけ!?」と思うことが多い。今回はしっかり掛け合いになっていた。最終決戦に残ったのは納得だし、3組の中ではインディアンスが一番良かった。これだけのスピードで漫才がぶれないというのは、実力がある証拠である。今の漫才コンビでスピードが速いのは、NON STYLEかトレンディエンジェルだが(ウーマンラッシュアワーは村本が速すぎて逆にバランスが悪い)、インディアンスはこれを超えた。あとは記憶に残るような一本芯の通ったネタが欲しい。
■モモ
「○○顔やないか」というお互いのツッコミボケのスタイル。「○○」の部分が後半になればなるほど、面白い言葉がチョイスされて笑いが増えていく。オール巨人が「前半もったいなかった。もっと最初から面白い言葉を持ってこれなかったか!?」みたいなコメントをしていたが、どうだろう。序盤から今回の後半レベルのワードを出し、そこからさらにマニアックなワードへ展開させていくのは相当難しいのではないか。なぜなら、「◯◯顔やないか」のやりとりを聴き始めた聴衆に「ガラ悪顔とオタク顔のコントラストで掛け合う漫才」ということを理解させるには、最初のワードチョイスはひねらず分かりやすい方がいいと思うのだ。ミルクボーイみたいに、フォーマットのしっかりした漫才なので、これからどう発展させていくかが楽しみである。
以上、54歳にもなってこんなことを真面目に書いている自分がつくづく情けなく、かつ、わりと好きだったりする。