習学寮自由思想の糾弾

昭和12年10月10日五高創立50周年記念祭を開催している。ここから習学寮も新しい第一歩を踏み出している。

習学寮では特別の動きはなかったが、新聞紙上では自由思想が指弾されているのは事実である。生徒は漸く個人主義に傾き、自己の室という殻に閉じ籠り多数の人間―――各々個性を有する人間の集合体として切磋琢磨の実をあぐるという寮生の生活意義の一面は空文化して去ってしまったようであった。

これは寮の構造そのものの影響も大きかったと思われる．一室二人の是非は大正時代以降その短所が指摘されていたがこの時代になり頂点に達していた。

崎野総代日誌の中に今後の考究として掲げている。十二月十二日南京陥落の提灯行列が行われたのであったが、これには市内の高専が参加したこの夜の五高生の態度について「乱雑の陣型とでも云いたい状態をとって進んでいる。自分も五高生だが，且つ又遅刻したのだがこれが五高生の本領かと思うとき唖然たらざるを得なかった。慚愧」

これに対して十四日の熊日紙上に「五高を塾愛する一市民より」として投書があって「竜南の沈滞が叫ばるる折から、その中心生命たる習学寮寮生諸君、自覚して此れ弊風を打破されたし。最近風儀よろしからず。先日の提灯行列の状態は何ぞ」と言う風な意味のものであった。

この頃の戦況報道については「かくされた部分」のあることが寮生間でも非難されている「拠らしむべからず知らしむべからず・・・然しあくまでも理想は知らしむべく拠らしむべく行はしむべく起たしむべしでなければならぬ。新聞！抱負あり、定見あり、洞察力有り、世道人心大いなる一時的ならざる、附和雷同ならぬを構成し得る新聞が望ましい」とこのように既に昭和十二年の寮生日誌に新聞記事を批判している。