脳表ヘモジデリン沈着症(指定難病122)のページを更新
- 脳表ヘモシデリン沈着症は、1908年にはじめて報告された病気です。脳の表面(くも膜下出血を生じる場所)に、血液が持続的に漏れ出て、その血液の赤血球にある鉄(酸素を運搬するために大事なものです)が、ヘモジデリンという物質になって脳の表面に沈着します。その結果、脳組織が破壊されてしまい、以下に記載するような様々な症状をだすと考えられます。大きく2つの病型に分けることができ、脳全体に広がる古典型と、脳の一部だけに病変が生じる 限局型 があります。指定難病の対象は、古典型です。
- 【原因】
- くも膜下腔に持続的に出血をするような病気を持っていれば、それが原因になることが考えられ、一部では、脊椎の硬膜(脊椎の中にある脊髄を覆う硬い膜です)の異常がみつかります。また、脳腫瘍や動静脈奇形(脳血管の奇形で多くは、脳出血、くも膜下出血、てんかんなどを生じます)がある時、頭部外傷、アミロイドアンギオパチー(高齢者において脳の血管にアミロイドという物質が沈着して、血管の壁が弱くなり破れるもの)などが指摘されています。しかし、明らかな原因が不明のこともあります。
- 【症状】
- 古典型と限局型では症状が異なります。この病気の中心となる古典型では、多くは50歳代で気づかれることが多いようです。過去の報告では男性に多く、この病気で亡くなられた方のデータでは、発症してから1年から22年までと幅が広くなっています。しかし、これは個々の方の症状などによって大きく変わる可能性があります。主な症状は、難聴、 小脳失調 、錐体路障害です。
《難聴》音を聞くために重要な聴神経にヘモジデリンが沈着することで生じます。この難聴は必発でこの病気で、完全聾になってしまうことが多いものです。
《小脳失調》ヘモジデリンは脳の表面、小脳(体のバランスを司る大事な脳)、脳幹(顔や首の運動や感覚を司る神経や、脳と四肢をつなぐ神経がある)、脊髄(手足の神経がある)の表面にも沈着します。特に、小脳へのヘモジデリン沈着は強く、そのため組織も強く破壊されます。その結果、話しにくくなったり、体がふらついたりします(ちょうどお酒を飲み過ぎて呂律がまわらない、あるいは千鳥足になるときと似ています)。これを小脳失調と言います。
《錐体路障害》脊髄の表面にヘモジデリンが沈着し、脊髄を破壊すると、錐体路障害といって、歩行のときに足が突っ張る、排尿がうまくできないといった症状が出ます。
《その他の症状》それ以外に、ヘモジデリンの沈着状況によって、においがわからない(嗅覚低下)といった症状も多く見られますが、きちんと検査がされていなくて気づかれていないときもあります。他には、ものが見えにくい(視覚障害)、物忘れや判断力が低下する( 認知機能 障害)など様々な症状を認めます。難聴は必発で、本疾患の特徴です。排尿障害、頭痛、嗅覚障害などもみられます。 - 【治療法】
- この病気に対する、 特異的 な治療法はありません。特に、一度脳に沈着してしまったヘモジデリンを除去すること、あるいは、それにより破壊されてしまった脳組織を修復することは困難です。しかし、4.に述べたような、持続的出血の原因が判明した場合は、それを手術などにより、積極的に治療をすることが大切と考えられます。脊髄の硬膜の異常(欠損や穴)がある場合は、可能なかぎり手術的に閉じたほうがよいとする考えもあります。また、難聴に関しては、人工内耳による治療が効果的であることがあります。いったん発症してしまった後でも、持続的な出血を止めることが重要です。また、止血剤の点滴注射も効果がある可能性がありますが、個々の病態にあわせて判断する必要があります。まだ、確立した治療法がないために、それぞれの状態に併せて、適切な対処方法を考える必要があります。
<出典:難病情報センター>
⇒ 指定難病一覧