今年の春闘では、賃上げ率は3.6%、中小企業においても3.2%と、30年ぶりの高水準となり、大企業における労働者1人あたりの賃金は611.3万円で前年度に比べ3.5%の増加だったそうだ。また、国の一般会計税収も大幅に増加しているそうだ。財務省が発表した2022年度の一般会計決算概要によると、国の税収は前年度比6.1%増の71.1兆円だったそうで、3年連続で過去最高を更新したようだ。企業業績が回復して法人税収が膨らんだほか、異常な物価高で消費税収が増えた結果だと言うことだ。一見、個人や企業の収入が増大し、万事目出度し目出度しとなる筈だ。
しかし、総務省によると、先月8月の消費者物価指数は生鮮食品を除いた指数が2020年の平均を100として去年8月の102.5から105.7に上昇し、上昇率は3.1%となり、3%以上となったのは12か月連続だそうだ。このうち、生鮮食品を除く食料は9.2%上がり、生活に必須な食料品の大幅な上昇が続いているとのことで、実質賃金は減少し、庶民の暮らしは厳しくなっている。
一方、財務省の発表した法人企業統計によると、2022年度の大企業の内部留保は511.4兆円と年度調査としては過去最高を更新した。前年度の484.3兆円から27.1兆円の増加であり、2023年度は恐らく過去最高を更新するだろう。
このように企業で内部留保が積み上がった主因は企業の利益が大きく増加したためである。利益が増加したとしても、法人税や利益処分における配当金や従業員の給与の支払いに当てれば、内部留保の積み増しは抑制されることになる筈だ。そこで、近年の法人税等の支払い額を確認すると、2016 年度で18 兆円と、2012 年度から 2 兆円の増加に留まっており、税引き前当期純利益に占める法人税等の割合は大きく低下している。復興増税の終了や法人税率の段階的な引き下げが実施されたことで、企業の税負担が軽減された為と考えられる。
一方、この間の企業の従業員に対する人件費の増加幅は限定的に留まっている。これは、最近の労働組合の弱体化により、組合員一人一人の要求が経営者側に伝わり難くなっているためであろう。欧米等でよく耳にする給与引き上げの為のストライキは日本では死語になりつつある。
さて、現在、国は1千兆円を越える借金で財政難に喘いでいる。そこでこの膨れ上がった内部留保を政府は何とか利用できないかと考えているようだ。そこでこれに課税しようとしたが、企業は日本での利益計上を減らすため、海外へ本社や事業所・工場などを移してしまう懸念があるとのことだ。そうなると、日本の雇用や産業集積が損なわれるとして、企業は猛反対しており、政府も腰砕けの感である。
企業は万一に備えて内部留保を増やしているのだろうが、企業が日本の将来の成長に 自信を持てるような財政健全化、少子化対策、人手不足への対応策、等の政策をしっかり立案、実行することが、政府の取り得る最善策であろう。2023.10.11(犬賀 大好ー953)