ボリショイ劇場 & シドニ-オペラハウス観劇記

元モスクワ、現在シドニ-赴任の元商社マンによるボリショイ劇場やシドニ-オペラハウスなどのバレエ、オペラ観劇記です

新国立劇場バレエ団『シンデレラ』2012年12月15日(土)

2012年12月18日 | Weblog

Nさんより寄稿頂きました。

「12月半ばとなり、2年に1度の年末恒例
新国立劇場バレエ団 アシュトン版『シンデレラ』を
初日、2日目と観て参りました。

初日はシンデレラ役の小野絢子さんが振付をすっかり自身のものにした
余裕のある踊り、高貴さが一層増した王子役の福岡雄大さん、
主役お2人とも好演されていました。
そして山本隆之さんによる
優雅さと破天荒さをバランス良く兼ね備えた義理の姉が素晴らしく、
役者としての才能を存分に発揮されていました。」

とのこと。

写真は会場のポスターです。


新国立劇場バレエ団『シンデレラ』2012年12月15日(土)

シンデレラ:小野絢子
王子:福岡雄大
義理の姉たち:山本隆之 高橋一輝
仙女:湯川麻美子
父親:石井四郎
春の精:五月女 遥
夏の精:西川貴子
秋の精:長田佳世
冬の精:寺田亜沙子
道化:八幡顕光
ナポレオン:吉本泰久
ウェリントン:貝川鐵夫

シンデレラは小野絢子さん、
じっとただずんでいるときはいたく大人しく淑やかな印象を受けたが、
踊り始めると水を得た魚の如く
清らかで明るいエネルギーに溢れ、
どんな状況においても前向きに進む可憐な少女だった。
姉達の脱ぎ捨てた衣類が山積みになったテーブルを前にすると
華奢で小柄な小野さんの身体が殆んど見えなくなり、
ダウンやコートなど大きめの冬物衣類の処理に追われる
クリーニング店の店員さんのよう、
健気に運搬する姿に元気づけられる。

宮殿に到着したときは既に姫君の風格を身に付け、
王子も恐る恐る手を伸ばしているほどであった。

危な気な箇所は皆無で
全てにおいて軽やかに易々と踊りこなす姿に圧倒された。

王子は福岡雄大さん、
高貴な雰囲気が一層増し、宮殿の主に相応しい品格があった。
シンデレラを幸福の場所へと優しく導き、
安心感を与える王子様であった。

ガラスの靴合わせではユーモアに富んだ表現で笑わせていた。
シンデレラの正体を知り、姉に足にはまった靴を
冷静沈着そうでありながらも力ずくで脱がし、
痛がっている姉役の山本さんとの掛け合いが面白く、
大胆な一面を覗かせていたのであった。

小野さんとのパートナーシップはもはや盤石の域に達し、
今後もあらゆる作品でファーストキャストを務めるであろうペアである。
つい昨日には、来年2013年のビントレー振付アラジンバーミンガム初演の
ゲストとして招聘されることが決定したとの発表があったお2人、
英国の観客を喜ばせるに違いない。

義理の姉妹の姉は山本隆之さん、
大暴走しても美しさや品を失わない素敵なお姉様で、
研究を重ね、考えに考え抜いて演じ、踊られていたことと想像できる。
仕草1つ1つが優雅、それでいて破天荒ぶりも健在、
シンデレラの姉でこんなに心惹かれたのは初めてであった。

陰湿さや嫌みたらしさが無く、シンデレラに対しては
良き子分とみなしてあれこれ命令しているように見えた。
身の回りのことをてきぱきとこなしてくれるとご満悦の表情、
憎めない女性である。
体育会系に近いさばさばとした間柄であるのか
シンデレラもそう嫌がっていそうには見えず、
運動部のマネージャー或いは下級生の如く素直に従い
せっせと働いていたのであった。

代わりに実の妹に対しては恐怖の姉で、
争いのときも手加減無し、容赦なく怪力でねじ伏せる
少々おっかないお姉様であった。
しかし一緒におめかしするときは共に舞踏会へ胸をときめかせ、
老婆の出現で気絶しそうになったときには互いを支え合う、
本当は仲良しな姉妹である。

2幕では雄孔雀も仰天する華麗さで登場、
巨大羽根扇子に表情豊かな頭を挟んで小刻みに歩き、
会場を笑いの渦に巻き込んだ。

驚いた点が、濃厚な舞台化粧にも関わらず
グロテスクな印象を受けなかったことである。
生来の良い顔立ちが実に化粧映えしていたのであった。

ガラスの靴合わせでは何としてでも王子様の花嫁の座を奪いたい思いが伝わり
思わず応援したくなる懸命さだった。
だからこそ、履きかけた靴を福岡さんの王子に無理矢理脱がされたときは
哀れに感じてしまったほどである。
最後シンデレラと仲直りするときは
頼りになる妹を失うことをとても寂しそうに思っている様子で
ほろりとさせられた。

今回、山本さんによるこういったクセの強いキャラクターを
初めてご覧になった方が多くいらしたが
まわりから聞こえてきた声の大多数は
役者のような上手さだ、といった言葉であった。

ところで、過去の山本さんのインタビュー記事を読み返していると
気づいたことがある。
それは女性役に強い関心を抱いていたのではと思わせる発言だ。
10年ほど前の新国立劇場会報誌ジ・アトレでは
くるみ割り人形出演にあたって
自身が踊る役以外で踊りたい役は何かとの質問、
共演の酒井はなさんはドロッセルマイヤー、
対する山本さんは、マーシャです、ときっぱり。

2007年のクララでは好きなバレエ音楽について語るインタビューに登場、
オデットのヴァリエーションの曲も好きと答え、更には
僕も踊ってみたいくらい、と憧れを示す発言をなさっていたのであった。

このような言葉の数々から、
今回のような女性役も意気込み十分で挑戦され、
山本さんならではの魅力あるお姉様が誕生したのではないかと思われる。
妹は高橋一輝さん、素朴で恥ずかしがり屋さんな
可愛らしい女性であった。
強烈な姉に怯えつつも良きコンビで舞台を盛り上げる、
出しゃばり過ぎず適度に抑えた弾けっぷりで
放っておけない存在である。

仙女は湯川麻美子さん、大らかな愛で包み込む
優しく凛とした妖精だった。
初演の頃から務めているそうで
眠っていても踊れるのではと思うほど安定感があり
四季や星の精達を統率しシンデレラを新しい世界へといざなっていた。

それからダンス教師の福田圭吾さんも忘れ難い名演であった。
男性と女性中間に当たる絶妙な踊りに
常識破りな生徒である姉達に辟易しながらころころと変わる表情が楽しく、
笑いを誘っていた。

四季の精達はベテランとフレッシュな顔ぶれ、それぞれの魅力を堪能できた。
春は五月女遥さん、まだアーティスト階級ながら大抜擢である。
小柄で達者なテクニシャンで、
小川を飛び跳ねる魚のような小気味良い踊りだった。
抜擢に納得である。

夏は西川貴子さん、初演時から務めるベテラン、
太陽光眩しい灼熱の気だるさをしっとりと表現されていた。

秋は長田佳世さん、優雅さと力強さを合わせ持ち、
四肢をバランス良く動かすことが難しい複雑な振付を
音に遅れることなくこなしていて、
他日にシンデレラを務めながらも選ばれたことに
説得力のある踊りであった。

冬は寺田亜沙子さん、
しんしんと静かに降る粉雪のような優しさを感じさせ、
長い手脚を生かした柔らかな踊りが素敵だった。

銀色に輝く馬車、目も眩むような煌びやかな装置、衣装、
流麗で摩訶不思議な雰囲気のあるプロコフィエフの
音楽が心を響かせる傑作バレエだ。
星をイメージした音楽が中でも繊細で美しく、
先日の流星群を思い出した方も多いことであろう。
馬車は2008年の事故以来安全運転で走行、
観客に恐怖感を与えることはないはず。

明日は米沢唯さん厚地康雄さんペアが登場、
共に初役のお2人、どのような舞台になるか楽しみである。



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3 コメント

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素晴らしいリポートですね (aruyaranaiyara)
2012-12-18 05:51:50
ノーブルな王子様の山本さんが、よりによって、アグリー色満開のシンデレラのお姉さん役など、絶対に観たくないと思ってましたが。
Nさんのお話を伺い、シンデレラを観に行きたくなりました。
ありがとうございました。
返信する
コメントありがとうございました (管理人)
2012-12-19 22:49:22
Aruyaranaiyaraさん
何時もコメントありがとうございます。
Nさんの観劇記は2日目もあります。
是非ご覧ください。
返信する
ありがとうございます (N)
2012-12-19 23:28:10
aruyaranaiyara 様

この度もコメントいただきありがとうございます。

山本さんのお姉様、是非ご覧になってみてください。

確かに、まさに王子様のダンサーでいらっしゃいますから義理の姉などご覧になりたくないお気持ちはわかります。しかしながらお茶目で弾けつつも適度に抑えて常に相手との距離を考えてのパフォーマンスを披露、やり過ぎな印象は受けません。物語を一層奥深くする良きスパイスのようなユーモアを効かせた芝居が魅力です。
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