手に落ちし 赤き実を噛み その酸きを 心に染めて 長き夜をゆけ
かろき罪と 思ひてなしし ことごとを 悔ゆる日の来て 林檎は落ちぬ
雨と降る 赤き林檎は 流れ来て 君が屋形の 戸をぞたたかむ
したたれる 血のごときかな 赤き実を 目にも記せよ なしし身なれば
虹の身の この世を歩く 岸辺にて 鴎を射ては ならぬとぞいふ
身を伏せて 蟹の小群れに 紛れども 空飛ぶ鳥は あきらかに見る
今はただ 花の盛りを 訪ふ人も 海の奈落に 沈む日は来る
久方の 天にしるせし ほほゑみの 白き三日月 今し降り来ぬ
いらだちを あをきかこひに たくはへて 灰に寝ねつつ 身をあぶる日々
あやまちの をかにたたずみ まぼろしの 苦き魚かみ 泣きとよむ風
月の子の 去りし後なる 長き夜を 高知らさむと 神や降り来ぬ
甘き夢 虹と語りて ゆく君を 見失ふ身の かろき愚かさ
まぼろしの 白虹を見し 月夜にて 風に語りし 夢を我知る
ただひとり 闇夜に降りし 月ありて ひとすじの歌 残して去りぬ
見出して 信ずることを ためらひし ときのこころを くゆる人の世
あやかしの けものおらびて しらたまの 月くづほれて 闇あらはれぬ
ますぐなる 鋼の我を たよりとし 暗黒の世を ひとりかもゆく
われこそが それを為さると いふことを 前に逃ぐるは をのこにあらず
なつくさの ふかきまよひの 世にありて われのまことを 今とひゆかむ
をのこなれば いのちひとつを つるぎとし だたゆかむとぞ すすむものなれ
かなしきは われのいたみを わかつこと なかれといひし きみのまなざし
かなしきは おのれのきずの くさりしを いたしともいふ こともなききみ
あかるみて のちのねむりの きみのめを ぬひてさまよふ わがうれひかな