相変わらず、ぜんぜん、原作のイメージと違いますから、そこらへんはご容赦ください♪
メリーベルは、「ポーの一族」の主人公、エドガーの妹です。これは確か、萩尾が漫画家として頂点に上ろうとしていたころに描いていたものでした。異界に住む美しいが苦しい一族の物語。萩尾は楽しんで描いていましたが、まだ、自分自身の本当の葛藤が何かわかってはいなかった、若い頃の作品です。それでも、後々、彼女の内部からうごめきだしてくる、狂おしい崩壊の予感が、におい出ている。
波打つ金髪の美しい、この天使のような少女、メリーベルはしかし、吸血鬼なのです。
長い髪に結ぶ、愛らしいリボン。清楚で美しい、女性らしいドレス。伏せた潤みがちの目に、やさしい愛の萌芽を隠している。あまりに美しいこの少女は、しかし、決してこの世界に存在することはできない。もし生きていれば、必ず殺される。
近所のスーパーなどで、女の子の服を見るたびに思うのですが、最近は、この絵の少女が着ているような女性らしいドレスは滅多に売っていません。フリルやレースなどを使って女の子っぽさを強調してはいますが、どちらかといえば男っぽいきつさの中に、無理やり女性らしさをくっつけているという感じです。最近では女性も、女性らしいかわいいワンピースや、ブラウスなどを、買わないのです。なぜなら、そんなのを着て、おんなのこっぽいかわいさを演出したりすれば、すぐに目をつけられて、いじめられるということを、知っているからです。
そんなドレスを着たくないという女性は滅多にいないでしょう。でも今の時代でそれを着られるのは、幼い頃か、結婚式などのときだけ。苦しいくらいに、今は、女性が女性として生きられない時代なのです。女性らしさを前面に出せば、殺される。なぜなら女性は、本当にかわいいからです。
メリーベルのような少女は、見る人に、あらゆる暗い感情を掻き立てる。ねたましい。いじめてやりたい。苦しめてやりたい。引きずり落としてやりたい。阿呆にしてやりたい。そして人は、暗い心のささやきに導かれるまま、実際に、その少女を、あらゆる手段を使って、殺してしまうのです。
「おまえは吸血鬼なんだよ。あほみたいに苦しいものなんだよ。かんべんしてよ。いやだから、痛いから、消えてよ」
恐ろしい呪詛を、銀の弾丸にこめて、あらゆる人が彼女を打ちぬく。そして彼女は、ほとんど何の抵抗もできないまま、塵と消えてしまう。
メリーベルは、この世界で生きていくことはできない。女の子は、この世界でおんなのことして生きていくことはできない。彼女らは、男にならねば生きていけない。
この世界はまさに「マージナル」そのもの。男しかいない世界なのです。
愛だけで微笑む、美しい少女は、存在してはいけないと、だれもがいう。なぜならば、彼女を見るとき、人々は自分がしてきたことを、ありありと思い出すからです。