世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

楽園の喪失

2015-09-02 05:14:31 | ちこりの花束

 聖書によると、エデンから追放されたアダムは労働の苦しみを、イヴは産みの苦しみを与えられたとあるそうだが、それに関連して、おもしろい話をみつけた。
 人間が二足歩行を始めたのが、いつのことだか知らないが、それは我らがご先祖様たちの肉体に、劇的な変革をもたらした。
 四足歩行をしていた動物たちは、腹部の内臓を、腹膜で背骨に吊り下げて安定を図っていたが、二本足で立ったご先祖様たちにはそれができなくなり、代わりに腰骨で内臓を支える方法を取った。しかし、その方法には致命的な欠陥があった。産道が狭くなるのである。
 二足歩行のまま内臓を安定させるには、ホモ・サピエンスの男性の腰骨のように、縦に細長く、ボールのように深いものが望ましいが、それでは子供が産めない。子供が産めないということは、種としての生命を維持できないということだ。そこでご先祖様は、その問題を性差で解決することにした。
 人間の女たち、すなわちイヴは、産道を確保するために腰骨を幅広くせざるを得なかった。腰骨が幅広くなると、内臓が安定しないため、運動性が著しく、男性すなわちアダムより劣ることになる。しかも腰骨を広くすることにも二足歩行を続ける限り限界があるので、難産に苦しみながら子供を産むことになった。子供も、より未熟な状態で生まれることになり、より難しい育児を引き受けなければならなくなった。ただでさえ運動性に問題のあるイヴは、子供のそばから片時も動けなくなり、自分で食物を得ることさえできなくなり、アダムに頼らざるを得なくなった。そして、アダムは、妻子の食物を得るために、より厳しい労働を負わなければならなくなった。
 二足歩行を、アダムとイヴと、どっちが先に始めたのかは、きっとだれにもわからないに違いない。まあ、罪を相手になすりつけるようなみっともない真似だけは、しないほうがいいようだ。


(1994年7月ちこり1号、ミニエッセイ)




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