村の人間など、俺が盗むために働いてくれている、馬鹿なのさ。オラブはいつものように、そう思うことにした。そして膝を抱きながら、次の盗みのことを考えた。
栗がなくなる前に、また村に言って、盗んで来なくてはなるまい。今度は魚が欲しいな。シメラの家にいけば、いつもうまそうな干し魚が干してあるんだ。あれを狙おう。
シメラの家は、川の近くにあった。そこで彼は、川にいったときのことを思い出した。
アロンダ。
その名を知ったのは、最近のことだ。
盗みをしに村に忍び込んだとき、若い男たちの噂話を盗み聞いたのだ。
あのとき、秋の交渉の日に、遠めから見たあの美しいヤルスベの女が、アロンダという名であることを、彼はそのとき知った。
オラブは目がよかった。遠くのものを、実によく見ることができた。ものかげに隠れながらも、よほど遠くに小さく見えていたその女が、目も覚めるような美しい女であることを、彼は正確に見抜けるのだ。
長い髪がつややかにたれていた。目は黒くてまるくて、花のように光っていた。あれはなんだ、と思ってひきこまれたとき、村人に見つかったのだ。