「ウソルの邪魔だけはするなよ。やつは女には執念深いんだ。邪魔すると恨んで復讐するんだよ。聞いた話だけど、今年はコダエを狙うんだとさ。だからコダエにはいくな」
「ふうん」
「女にもな、きついやつがいるから気をつけろよ。ドルナとその妹のところには、おまえはいかないほうがいい。馬鹿にして、痛いことをやられるかもしれない」
「痛いことって?」
「男が馬鹿だと見たら、後でいろんなものを要求するんだよ」
歌垣では様々な情報が飛び交う。本番を前に、十分に調整しておく必要があった。だれがだれに歌いかけるかは、存分に話し合って決めねばならなかった。
アシメックは歌垣には参加せず、楽師の代わりに丸太をたたくことにしていた。楽師も歌垣には参加したいからだ。歌垣には音楽は欠かせないものだが、楽師だからと言って、裏方にしばりつけておくわけにもいかない。だからアシメックは家で、丸太をたたく練習をしていた。ソミナはそのそばで、少しおかし気に笑いながら、茅を織っていた。
「あにやが楽師をするなんて、少しおかしい」
ソミナは言った。
「いつものことじゃないか」
「どうしてあにやは歌垣に出ないの?」
「うん? もう年だからな」
「そんなことない。あにやは若いよ。女にも人気があるのに」
「もういいんだよ、おれは。若いやつらに花をもたせてやらんとな」
アシメックは笑いながら言った。ソミナが歌垣に出ないことには触れなかった。ソミナは醜女であることを気にしているのだ。だから歌垣に出たことはない。歌垣の日は、いつも家に閉じこもって、何かをしていた。