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アシメックが宝蔵の入り口に回り、エルヅの名を呼ぶと、しばらくして中から小さな声が聞こえた。
「入り口は今開いてるから、入ってくれよ」
そこでアシメックは遠慮なく、入り口に下げてある鹿側の帳をあげ、宝蔵に入っていった。中では、エルヅが茣蓙に座り、何かをしきりに数えていた。
アシメックはしばらく宝蔵の隅に立ち、その様子を眺めていた。
エルヅは厚い茅布で作った袋から、鉄のナイフを取り出し、それを数えていた。鉄のナイフは村の共有の財産で、部族の一番の宝だ。カシワナ族はまだ鉄のナイフを作ることができなかったので、隣のヤルスベ族からそれをもらっていた。もちろんただではない。カシワナ族の居住域には、オロソ沼という広大な湿地帯があり、そこには野生の稲の大群落が自生していた。その稲を採取し、採れた米を交換物として差し出し、ヤルスベ族から鉄のナイフをもらうのだ。
ヤルスベ族には鉄のナイフを作る技術があった。聞いたところによると、昔ヤルスベ族の神からもらった炉を使い、熱い火を燃やして石を溶かすのだという。それでナイフを作るのだが、ヤルスベ族はどうしてもその技術をカシワナ族に教えてくれなかった。どんなやり方で作っているのかと詳しく聞こうとすると、ヤルスベ族の民は途端に嫌な顔をする。そして仲間でない者には絶対に教えないと言って、変な呪文を叫び、カシワナ族を追い返してしまう。